
原書房 定価2500円=税別
第1刷:2025年5月8日 第4刷:同年8月11日 原著発行:2021年
今や伝説と化した刑事ドラマ『刑事コロンボ』の全貌と内幕を、第1作『殺人処方箋』(1968)から最終作『殺意のナイトクラブ』(2003)まで、余す所なく網羅したルポルタージュ。
僕はNHK総合で初放送された1972年からコロンボを観ており、今も全69話を収録したコンプリート・ブルーレイBOXを所有しているほどのファンなので、本書も大変興味深く読んだ。
コロンボの研究書にはNBCの旧シリーズ(1968~1978、日本ではNHKが初放送)終了時に刊行された『刑事コロンボ レインコートの中のすべて』(1999年、マーク・ダウィットジアク著、岩井田雅行/あずまゆか訳、角川書店)がある。
本書はその増補完全版ともいうべき内容で、手元に2冊揃えておけば、コロンボのドラマ自体もより面白く観ることができるだろう。
ABCの新シリーズ(1989~2003、日本では『新・刑事コロンボ』というタイトルで日本テレビが初放送)まで詳細な舞台裏を描いた本書を読むと、ピーター・フォークをはじめ、大勢の脚本家やユニバーサルのスタッフがいかにして倒叙ミステリのアイデアを探すのに苦労していたかがよくわかる。
フォークは最初から脚本や共演者に対する〝拒否権〟を持っていたそうで、視聴率と人気が上がるにつれて彼のギャラも高騰し、権力もまた強大になっていった。
とくにABCシリーズの終盤になると、自分と仲のいい俳優を脇役に使うだけでなく、新しい妻シエラ・デニスを重要な犯人として起用するなど、明らかにかつてのコロンボの雰囲気をぶち壊しにする方向へ走り始める。
監督兼犯人役として多大な貢献をパトリック・マクグーハンも、第28話『祝砲の挽歌』(1974)や第34話『仮面の男』(1975)あたりまではよかったが、第68話『奪われた旋律』(1998)では駆け出しのライターのアイデアをパクった上に脚本を改ざんするという独断専横ぶりだった。
この頃には視聴率も下降の一途を辿っており、『殺意の旋律』は1998年に制作されていながら、やっとオンエアされたのは実に3年後の2001年。
最終話『殺意のナイトクラブ』の放送はさらにその2年後の2003年で、75歳となったフォークの髪は真っ白、体型も大きく崩れてでっぷりと太り、認知症の兆候も進んで、監督の名前を間違えるほどだったという。
しかし、そういう内幕を知ってもなお、というより知れば知るほど、コロンボは面白い。
本書の内容を咀嚼して旧シリーズのブルーレイを原語版で観ると、小池朝雄の吹き替え版とはまた違う本当のコロンボ像が浮かび上がってくるような気さえする。
なお、ダウィットジアクの著書が各エピソードの粗筋を紹介し、逐一解説を加えているのに対して、本書はそこまで行き届いた構成は取っておらず、コロンボをよく観ている読者を前提とした高踏的なスタイルになっている。
そういう意味では、もう少し初心者の読者に親切な書き方をしてほしかった。
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