『ドリームプラン』(WOWOW)🤗

King Richard
144分 2021年 アメリカ=ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
 日本公開:2022年

この映画を観るまで、不勉強にして知らなかったのだが、テニスのウィリアムズ姉妹の父リチャードは、彼女たちがジュニアで活躍していたころから厳しいコーチ、と同時に猛烈な〝テニスパパ〟として知られる有名人だったらしい。
ビーナスやセリーナが台頭し始めた1990年代後半、彼女たちのテレビインタビューに割り込んではああだこうだと捲し立てる姿は、当時のテニス界の〝名物〟と化していたようだ。

本作は、そのリチャードを演じるウィル・スミスが製作を兼務し、製作総指揮にビーナスとセリーナをはじめ、彼女たちの異父姉イーシャ・プライスも名を連ねており、ウィリアムズ一家全面協力の元に製作されている。
ただし、スミスがインタビューで明かしているところによれば、リチャード本人だけには直接取材を拒否され、本作の公開後も観てくれたかどうかわからないという。

リチャードと妻オラシーン(アーンジャニュー・エリス)はともに子持ちの再婚で、リチャードは前妻との息子たちと折り合いが悪かったが、妻の連れ子たち3人は自分の子供のように可愛がっていた。
しかし、自分が務める警備員、妻の看護師の収入だけではカリフォルニア州の下町コンプトンの貧乏暮らしからいつまで経っても抜け出せない。

そこでリチャードは、子供をもう2人作ってテニスのチャンピオンにしよう、と一念発起。
ビーナスとセリーナが生まれる前から78ページの育成計画書を作り、彼女たちにテニスを始めさせてからは、自家製の写真付きパンフレットを手にテニススクールに通って売り込みに歩く。

リチャードが下町のコートでテニスの指導をしていると、同じ黒人の悪ガキにからまれ、娘たちの目の前でぶん殴られたりするが、そうした屈辱的な目に遭っても逆上して仕返ししたりはせず、娘たちの指導に心血を注ぐ。
ようやく念願叶ってピート・サンプラスのコーチ、ポール・コーエン(トニー・ゴールドウィン)にビーナスを売り込むことに成功し、ジュニアの試合で63連勝。

しかし、ここでリチャードは、ビーナスをジュニアの国内大会、国際大会に出場させようと持ちかけたコーエンの誘いを拒否し、自分たちの実力を自惚れていたビーナスとセリーナを叱責。
ちょっと勝ったからといってつけあがるな、他人を見下してはいかん、ふだんの生活では常に謙虚で、礼儀正しくしていなさい、などと言い聞かせる。

このようにリチャードがいささか持ち上げられ過ぎているように感じられる場面もある一方で、新たにビーナスのコーチ契約を結んだリック・メイシー(ジョン・バーンサル)には、娘ひとりだけでなくウィリアムズ一家全員の面倒を見ろ、家族みんなでフロリダに移住するからキャンピングカーの新車も買ってくれ、などとガメツイ要求を突きつける。

テニスはスポーツであると同時にビッグビジネスであり、成功するか否か、ビッグマネーをつかめるかどうかはコーチやエージェントとの交渉次第、という内幕も実名入りで描写されている。
スポーツメーカーと数百万ドルの大型契約を結ぶに当たり、リチャードがまだ14歳だったビーナス自身に決断を求めるシーンはとりわけ印象的だった。

全体としてはリチャードの偉人伝的にまとめられてはいるが、スポーツビジネスのシビアな側面が具体的に描かれているところを評価したい。
これほどの情報量があれば、テニスやウィリアムス姉妹に興味のない人でも興味深く観ることができるず。

ウィル・スミスは、彼の素顔を忘れてしまうほどの熱演で、下馬評通り今年のアカデミー主演男優賞を受賞した。
受賞の前、会場で司会のクリス・ロックを壇上でひっぱたき、一転して不祥事の主役になってしまったことは返す返すも残念でならない。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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