『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』(WOWOW)🤗

L’Affaire Farewell
113分 2009年 フランス 

2000年代に製作されたスパイ映画ではジョン・ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』(2011年)、『誰よりも狙われた男』(2014年)などが印象深い(007シリーズのような娯楽アクション大作は除く)。
前者はゲイリー・オールドマン、後者はフィリップ・シーモア・ホフマンが主演で、非情で冷徹なスパイの世界に生きる男たちの生き様をリアリティたっぷりに表現していた。

最近では、キューバ危機の最中、一介のセールスマンが友情と正義感からスパイ活動に手を染めた実話もの、『『クーリエ:最高機密の運び屋』』(2020年)も高く評価された。
しかし、経済的な理由からやむなくスパイ活動をせざるを得なくなる市井の人間を描いた作品としては、本作がベストではないかと僕は思っている。

1981年、崩壊寸前のソ連で西側に情報を流し続けるKGBの大佐(エミール・クリストリッツァ)がいる。
その情報の伝達役をやっているのはモスクワに赴任しているフランス人で、家電メーカーに勤めるサラリーマン(ギョーム・カネ)。

大佐とその妻(インゲボルガ・タコプウナイテ)はそれぞれに愛人がいて、大学進学を控えたひとり息子はイギリスのロックにかぶれている。
その息子はやがて父の不倫を知り、親子関係は断絶。

一方、フランス人サラリーマンは2人の子どもを抱え、海外生活の長い妻(アレクサンドラ・マリア・ララ)はフラストレーションに苛まれ、夫にスパイの副業をやめるように迫っている。
タイプも生まれ育ちもまったく異なる大佐とサラリーマンは、どちらもいまの生活から抜け出したいがゆえに、高額の報酬を得られるスパイ活動を続けないではいられない。

そして、次第に奇妙な友情が生まれ、行動が大胆になり、危険な情報にも手を伸ばし始め、男たちは後戻りのできない状況へと追い込まれてしまう。
これが最後にどう破綻するか、映画はじっくりと、丁寧に、過不足なく描いてゆく。

なお、本作も実話もので、ソ連崩壊の一因になったとも言われているフェアウェル事件に基づいている。
こちらは『クーリエ』以上に救いようのない結末を迎えるが、温かみを感じさせるタッチが効いていて、後味は悪くない。

幕切れでは胸にズシリと重い余韻が残る。
傑作とは言えないまでも、いつまでも記憶の隅っこに引っかかっているタイプの佳作。

オススメ度A。

旧サイト:2011年10月11日(火)Pick-up記事を再録、修正

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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