『日本女侠伝 侠客芸者』(東映チャンネル)🤗

99分 1969年 東映

東映・藤純子の代表作といえば、何といっても女侠客・お竜さんを演じた『緋牡丹博徒』シリーズだろう。
子供のころ、テレビで見た第6作『緋牡丹博徒 お竜参上』(加藤泰監督、1968年)の名場面はいまも鮮明に記憶に残っている。

雪の降りしきる橋のたもと、故郷へ帰る流れ者・菅原文太にお竜さんがみかんを手渡すと、そのひとつが転がって降り積もった雪に一筋の轍を描く。
これを加藤泰独自の美学で持って、地べたすれすれで撮ったカットが忘れがたい。

その前か後か、喧嘩(でいり)で仇敵の根城に乗り込むお竜さんの姿に、藤純子が自ら歌う主題歌がかぶさる。

♪娘盛りを 渡世にかけて 張った体に緋牡丹燃える 
女の 女の 女の意気地 度の夜空に 恋も散る

いよいよ勝負というその直前、ドスを抜いて相手を睨みつけるキリリとした目つきにしびれないではいられない。
凄み、妖艶、可愛らしさと、すべてを含んだ「女ならではのカッコよさ」としか表現しようのないあの目、どんな美人女優も真似のできないあの表情は、いまだにぼくの憧れだ。

本作は『緋牡丹博徒』シリーズに続く新シリーズの第1弾で、タイトルバックでいきなり藤純子が「あの目」で大見得を切ってくれる。
不埒なやくざ者の客の無体な注文を撥ね付け、周囲の三下が長ドスを振りかざした途端、キッと見上げた藤純子の顔に『日本女侠伝 侠客芸者』と筆書きのタイトルがかぶさり、音楽がドドーン!!!

藤純子の役どころは博多一の売れっ子芸者・信次。
見目艶やかな芸達者、男勝りの喧嘩上手、数多の上得意を持ちながら、なけなしの銭で駆け込んできた入山直前の坑夫を優しくもてなす気っ風のよさも持ち合わせている。

そんな坑夫たちを束ねる納屋頭で、払うべきものは払わせていただきます、と頭を下げるのが高倉健。
いえ、いただくべきものいただいてますからと、これをきっぱり断る純子と健さんは、すぐさま当然のように好意を抱き合うようになる、という展開は見え透いていても納得できる。

敵役は健さんの経営する炭坑を買収しようとつけ狙う大手石炭会社社長・金子信雄、その配下のやくざ(現代でいう企業舎弟)の親分・遠藤太津朗というお馴染みの面々。
執拗な嫌がらせのあげく、ダイナマイトを仕掛けられて炭坑を爆破、坑夫を殺された健さんは、ついに堪忍袋の緒を切り、長ドス片手に金子、遠藤の根城に殴り込む。

健さん扮する納屋頭は元やくざ者という設定で、クライマックスでもろ肌脱いだ途端、見事な彫り物が大映しになる。
ここから血みどろになりながら遠藤、金子に迫ってゆく迫力とカッコよさはさすがは健さんで、ぼくが見た〝健さん映画〟の中では一、二を争う出来映え。

その健さんの殺陣に純子の演じる舞いがかぶさり、カットバックで両者を交互に見せてゆくシークェンスは、東映任侠路線の美学が到達したひとつの頂点と言っても言い過ぎではない。
筵をかぶせられ、担架で運ばれる健さんの骸(むくろ)を、純子が黙って見送る場面も素晴らしい。

ラスト、平和の戻った博多の店で、純子にお座敷のお呼びがかかる。
画面一杯に映った純子が化粧をしているうち、大きく開いた両目から涙がこぼれ落ちてくる様をワンシーンワンカットで見せたところでストップモーション! という幕切れには本気で痺れました。

監督は山下耕作、脚本は野上龍雄、撮影は鈴木重平、企画はもちろん俊藤浩滋と日下部五朗。
お見事でした。

お勧め度はA。

旧サイト:2015年06月24日(水)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

24『昭和残俠伝 血染の唐獅子』(1967年/東映)B
23『大コメ騒動』(2021年/ラビットハウス)C
22『王の願い ハングルの始まり』(2019年/韓)A
21『フラッシュ・ゴードン』(1980年/米)B
20『タイムマシン』(2002年/米)C
19『アンダーウォーター』(2020年/米)C
18『グリーンランド−地球最後の2日間−』(2020年/米)B
17『潔白』(2020年/韓)B
16『ズーム/見えない参加者』(2020年/英)C
15『アオラレ』(2020年/米)B
14『21ブリッジ』(2019年/米)B
13『ムニュランガボ』(2007年/盧、米)C
12『ミナリ』(2020年/米)A
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
10『死霊の罠』(1988年/ジョイパックフィルム)C
9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
8『VHSテープを巻き戻せ!』(2013年/米)A
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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