『KCIA 南山の部長たち』(WOWOW)😉

남산의 부장들/The Man Standing Next
114分 2020年 韓国 日本公開:2021年 配給:クロックワークス

1979年10月26日、ソウル特別市で起こった朴正煕大統領暗殺事件を映画化し、昨年韓国で大ヒットした作品。
キム・チュンシクによるノンフィクション『実録KCIAー「南山と呼ばれた男たち」』(1994年/講談社)を原作としているが、冒頭でフィクションであるとのテロップが出て、朴大統領の下の名前が伏せられているのをはじめ、主要登場人物もすべて変名となっている。

とはいえ、事実を素材としていることは間違いなく、正統派ポリティカル・フィクションとしてがっちり作ってあるので、どこまでが本当でどこからが虚構なのか、あれこれ頭の中でツッコミを入れながらもグイグイ引き込まれてしまう。
オープニングは事件発生当日の夜、ソウル特別市ににあったKCIA(韓国中央情報部)の秘密宴会場で、朴大統領(イ・ソンミン)たちが酒宴を開いていた最中、KCIA部長キム・ギュピョン(モデル:第8代同部長キム・ジェギュ/イ・ビョンホン)が部下たちに暗殺決行を宣言。

ここから場面は40日前に遡り、アメリカに亡命したKCIA元部長パク・ヨンガク(モデル:第4代同部長キム・ヒョンウク/クァク・ドウォン)がワシントンの米下院議院公聴会で朴大統領の不正を告発している場面に移る。
パクは朴政権の内情を暴露した回顧録の出版を予定しており、その原稿を入手するよう朴大統領に命じられたキムはワシントンへ飛んでパクを説得。

キムとパクはかつて、朴大統領が主導した1961年の5.16軍事クーデターに参加し、政権掌握を成功させた功労者だった。
だからふたりともKCIA部長という要職を与えられたのだが、大統領となった朴は独裁者と化して大衆の民主化運動を弾圧した上、私腹を肥やして財産を秘密裏に海外へ持ち出し、秘かにマネーロンダリングを行なっている、という〝実態〟がキムとパクの会話から明らかになる。

自分たちが参加したクーデターを人民のための「革命」だったと思い入れたっぷりに語るパクは、当時の志を忘れ、いまや腐敗の極みにある朴大統領を許すことができない。
キムはそうしたパクの心情を理解しながらも、あくまで朴大統領に対する忠誠を貫こうしていたが、折から釜山や馬山で民衆が朴政権の弾圧に対するデモを起こすと、大統領警護室長クァク・サンチョン(モデル:同第3代室長チャ・ジチョル/イ・ヒジュン)が戒厳令発布を進言し、朴大統領も同意してしまう。

この朴大統領側近の座を争うキムとクァクの〝内部抗争〟も、現実の裁判で絞首刑にされたキムの重要な動機のひとつとされており、本作ではクァクは徹底的に狡賢くて嫌なやつ、しかもかなり直情径行型の人間として描かれている。
こんなアホに失脚させられてたまるかと、一度は大統領の信頼を取り戻そうとしたキムが戦友パクの暗殺に動く、という展開も捻りが効いていて面白いが、このへんからいくら何でも作り過ぎじゃないか、というシーンが目につくのも確か。

そうした紆余曲折を経ながらも、ついに堪忍袋の緒を切ったキムが朴大統領に向かって拳銃を向けるクライマックスは大いに盛り上がる。
ただし、日本人の観客としては、あくまでもエンターテインメントとして、娯楽半分、韓国史の勉強半分、ぐらいの気分で観ておいたほうがいいでしょう。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

124『3時10分、決断のとき』(2007年/米)B
123『アルビノ・アリゲーター』(1997年/米)C
122『悪い種子』(1956年/米)C
121『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年/英、仏)C
120『ノマドランド』(2021年/米)A
119『復讐無頼 狼たちの荒野』(1968年/伊、西)B※
118『スペシャリスト』(1969年/伊、仏)C
117『父 パードレ・パドローネ』(1977年/伊)B※
116『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/西)A
115『雨の訪問者』(1970年/伊、仏)A※
114『カサンドラ・クロス』(1976年/西独、伊、英)B※
113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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