『シルミド SILMIDO』(WOWOW)😉

실미도/Silmido
135分 2003年 韓国 日本公開:2004年 配給:東映

1971年、朴正煕政権時代の韓国で、北朝鮮初代最高指導者・金日成暗殺を目的とした特殊部隊が秘密裏に結成されるが、アメリカの思惑も絡んだ南北融和政策への方針転換によって存在意義を失い、冷遇されて激怒した隊員たちがバスを乗っ取って大統領官邸青瓦台へ乗り込もうとする。
と書くと、まるっきり一昔前の劇画のような荒唐無稽なストーリーのように思えるし、冒頭の字幕でもあくまでフィクションと断ってはいるが、大筋においてはれっきとした実話だというのだから驚いた。

オープニング、1968年1月21日に38度線を超えて北朝鮮からソウルに侵入した朝鮮人民軍第124部隊による青瓦台襲撃未遂事件が描かれる。
迎え撃った韓国軍との激しい銃撃戦の末に124部隊は全滅し、逮捕された隊長が朴大統領暗殺が目的だったと告白したため、朴大統領は報復として金日成暗殺部隊を組織することを決断。

本作でこの部隊につけられた「684部隊」は、この部隊が編成された年月の1968年4月にちなんでおり、現実に使用されていたコードネームで、正式名称は空軍2325戦隊209派遣隊という。
現実には空軍が高額な報酬を提示して一般社会から隊員を募集したそうで、一種の傭兵部隊のような組織だったらしいが、本作では死刑囚や暴力団の組長など、社会復帰できなくなった食い詰め者が秘密裡にかき集められたという設定。

タイトルのシルミド(実尾島)は現実に存在する無人島で、684部隊の兵舎が建てられ、命を落としかねない激しい訓練が行われたのも史実通り。
この映画では綱渡り訓練中の落下事故でひとりが重症、ひとりが死亡しているが、実際には訓練中に7人も死んでいるそうだ。

684部隊の実質的リーダーとなるカン・インチャン第3班長(ソル・ギョング)は、大学教授だった父親が北朝鮮に亡命したため、自分もアカ(共産主義者)と見られて就職が叶わず、身を持ち崩してヤクザとなり、殺人未遂容疑で逮捕された若者という設定になっている。
カンを厳しく指導しながら、やがて激しい訓練に耐え抜いた彼に友情に似た気持ちを抱くようになる韓国空軍の指導官がチェ・ジョヒュン准将(アン・ソンギ)とチョ2曹(ホ・ジュノ)。

彼らを取り巻く脇役たち、元死刑囚の第1班長ハン・サンピル(チョン・ジュヨン)、元暴力団組長の第2班長カン・シニル(チョ・クンジェ)、訓練中の落下事故で兵士から炊事係となるチャンソク(カン・ソンジン)もなかなか魅力的なキャラクターで、役者たちもそれぞれ大変な熱演。
ただし、この人間ドラマはほぼ完璧なフィクションと推察されるものの、その割には映画的遊びや飛躍が少なく、登場人物たちが何かと言えば力み返って大声を出すので、いささか息苦しく感じられる。

もっとも、長らく歴史の闇に埋もれていた事件を30年以上の時を経て明るみに出し、商業映画の大作として公開するには、これくらい生真面目に作る必要があったのかもしれない。
それでも、シルミドから脱走した兵士ウォン・ホイ(イム・ウォニ)が診療所の看護婦をレイプする場面には、684部隊の元兵士を冒涜としているとして、遺族から強硬に抗議されたそうだ。

日本人にとってわかりにくいのは、シルミドに連れ戻されたウォンが処刑される前、涙を流しながら北朝鮮の軍歌『赤旗の歌』をがなるように歌い、これにほかの部隊員たちが唱和する場面。
『赤旗の歌』はこの場面のほか、クライマックスを含めて4回使われており、事実とは異なる完全な創作で、684部隊から働き場所を奪った当時の朴政権に対する抗議を意味しているようにも思えるが、製作者の真の意図はどこにあったのか。

監督は本作の後年、傑作サスペンス『黒く濁る村』(2010年)、野球映画の佳作『ホームランが聞こえた夏』(2011年)などを撮るカン・ウソク。
難しい題材に真正面から取り組み、大銃撃戦が展開するクライマックスまで、ほとんどダレさせずに引っ張った力量はこの当時からさすがだった。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

125『KCIA 南山の部長たち』(2020年/韓)B
124『3時10分、決断のとき』(2007年/米)B
123『アルビノ・アリゲーター』(1997年/米)C
122『悪い種子』(1956年/米)C
121『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年/英、仏)C
120『ノマドランド』(2021年/米)A
119『復讐無頼 狼たちの荒野』(1968年/伊、西)B※
118『スペシャリスト』(1969年/伊、仏)C
117『父 パードレ・パドローネ』(1977年/伊)B※
116『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/西)A
115『雨の訪問者』(1970年/伊、仏)A※
114『カサンドラ・クロス』(1976年/西独、伊、英)B※
113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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