『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(IMAXレーザー)☺️

No Time to Die
163分 2021年 イギリス、アメリカ=ユナイテッド・アーティスツ・リリーシング、ユニバーサルピクチャーズ
日本配給:東宝東和

2006年の『カジノ・ロワイヤル』から15年間、6代目ジェームズ・ボンド(イーオン・プロダクション制作のシリーズに限る)を演じてきたダニエル・クレイグも5作目の本作をもって007シリーズを〝卒業〟となった。
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』というタイトルの意味、観る前まではまったく気にも留めていなかったのだが、正直、想像だにしなかったエンディングを目の当たりにして、ええっ、そういうことだったの? と驚かされました。

オープニングは例によって、ライフルスコープの輪の中にボンドが登場し、こちらに向かってピストルをバキューン!
その直後からツカミのアクションシーンに移行するのが昔からの通例だったところを、本作ではノルウェーの湖畔に暮らす母と娘の元に能面をかぶった男が現れ、娘の前で母親を撃ち殺す、という意外で沈鬱な出だしから始まる。

この娘が長じて大人になったのが、前作『スペクター』(2015年)でボンドの恋人となったマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)で、MI6から引退したボンドとイタリアを旅行している最中。
このシリーズはダニエル・クレイグがボンドを演じるようになってから、かつては「ボンドガール」と言われたヒロインの位置付けやキャラクターがガラリと変わり、ラブシーンにかなりの尺を割くようになった。

ショーン・コネリーやロジャー・ムーアがボンド役だった時代のボンドガールは、はっきり言って恋人というよりも単なる遊び相手のガールフレンドに近かった。
ボンドガールの役名も『ゴールドフィンガー』(1964年)の女性パイロットが女性器を意味するプッシー(オナー・ブラックマン)、『私を愛したスパイ』(1977年)の女スパイがハードコア・ポルノ映画の年齢制限最高ランクのトリプルX(バーバラ・バック)など、いまならハリウッドの女優たちを激怒させそうなネーミングである。

その点、2作続けて恋人として登場するマドレーヌは恐らく、1962年の第1作『ドクター・ノオ』以来59年に及ぶ007シリーズ史上、最も真剣、かつ長期間にわたってボンドと愛し合ったヒロインではないだろうか。
マドレーヌとの結婚を考えているボンドは、『カジノ・ロワイヤル』で悲劇的な死を遂げたかつての恋人ヴェスパー・リンドの思い出を振り払おうと、彼女の墓に足を運ぶ。

すると、その墓が突然爆発し、吹っ飛ばされたボンドをスペクターの殺し屋たちが取り囲んで、ここからようやく007シリーズらしい本格的なアクションシーンがスタート。
スペクターの一味に自分の居場所を教えたのはマドレーヌではないかという疑惑を抱いたボンドは、アストンマーチンに彼女を乗せて追っ手から逃れたあと、一方的に別れを告げて姿を消す。

それから5年後、ジャマイカでひとり引退生活を送っていたボンドの前に、CIAの旧友フィリックス・ライター(ジェフリー・ライト)、MI6で新たな007となった女性諜報部員ノーミ(ラシャーナ・リンチ)が登場。
スペクターが新たな細菌兵器を手に入れ、大量殺戮を計画している、阻止するために手を貸してくれ、というのだ。

この調査の最中、ボンドはスペクターの首領ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)と再会。
やがて、ブロフェルドの背後に、リューツィファー・サフィン(ラミ・マレック)という新たな悪役が存在し、日本とロシアの領海付近で細菌兵器工場を建設していることが明らかになる。

ストーリー自体は昔ながらの007シリーズと大同小異で、細菌兵器工場で銃撃戦が繰り広げられるクライマックスの趣向も『007は二度死ぬ』(1967年)のロケット発射基地や『私を愛したスパイ』の海上要塞での大乱闘を彷彿とさせる。
そうした大がかりな仕掛けと派手なアクション場面のつるべ打ちの中で、かつてのボンドはとにかくカッコよく、時には余裕をかましながら悪役をやっつけていた。

しかし、21世紀の本作に登場するボンドは、群がる敵戦闘員たちを次々に撃ち倒しながらも、愛した女性を信じるべきかどうかとごく普通の男のように苦悩し、ひたすら歯を食いしばって、痛みと屈辱に耐える姿が強調されている。
ボンドを囲む人種も多種多様になり、ライターやイヴ・マネーペニー(ナオミ・ハリス)が白人から黒人に変わったのに加え、ボンドのコードネーム007を継いだノーミも黒人女性になった。

イーオン・プロダクションでは数年前から7代目ボンドを女性にするというアイデアも検討されていると聞く。
切りのいい第25作となった本作は、ボンドのキャラクター、ヒロインの位置付け、多種多様な登場人物、これまでにない斬新なエンディングなど、様々な意味で007シリーズのターニング・ポイントになりそうな作品である。

ただ、単純に楽しめるエンターテインメントとしては、前作の『スペクター』のほうが上だったかなあ、
…という点を割り引いて、採点は75点です。

池袋グランドサンシャインシネマTOHOシネマズ新宿・上野・日本橋、新宿バルト9、などで上映中

2021劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

3『ファーザー』(2021年/英、仏)90点
2『ゴジラvsコング』(2021年/米)70点
1『SNS 少女たちの10日間』(2020年/捷克)80点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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