『6才のボクが、大人になるまで。』🤗

Boyhood
166分 2014年 アメリカ=IFCフィルムズ、ユニヴァーサル・ピクチャーズ
日本配給:東宝東和

近年の秀作『30年後の同窓会』(2017年)で円熟の域に達した作風を披露したリチャード・リンクレイターが、その3年前に世界的名声を獲得した名作。
当初、2014年にインディペンデント系のサンダンス映画祭などで公開されて評判が広まり、翌15年にはアカデミー賞作品賞をはじめ、リンクレイターが兼務した監督賞、脚本賞など主要6部門でノミネート、パトリシア・アークエットが助演女優賞を受賞した。

日本では2014年11月に封切られ、いったん公開を終えていたが、翌15年2月にWOWOWで生中継されたアカデミー賞授賞式で人気が再燃し、3月ごろに再公開されている。
僕はその際、日比谷シネマズシャンテで鑑賞した。

本作の最大の特徴は、邦題にある通り、ひとりの少年が6歳から18歳になるまでの12年間を、現実に12年間かけて撮り続けたところにある。
それも、ドキュメンタリーならともかく劇映画で、主役のエラー・コルトレーンをはじめ、両親と姉を演じる主要キャストとスタッフをまったく変えないままに製作を継続した、ということにまず驚かないではいられない。

主人公のメイソン(コルトレーン)は、母オリヴィア(アークエット)、姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター、監督の娘)と3人暮らし。
母が離婚した父メイソン・シニア(イーサン・ホーク)は月2回、年代物の三菱GTOに乗ってメイソンとサマンサに会いにやってくる。

メイソンたちはいつか父と母に寄りを戻してもらいたいのだが、ふたりの関係は極めて険悪。
23歳でデキちゃった結婚した仲で、父が定職に就こうとしないことから母のほうが愛想を尽かした、という過去が見ているうちにだんだんわかってくる。

母はやがて、大学で勉強して修士号を取り、教員になろうと一念発起、メイソンとサマンサを連れて片田舎から大都会ヒューストンへと引っ越す。
そこで通い始めた大学の講師ビル(マルコ・ペレラ)と恋仲になり、子連れ同士での再婚に踏み切った。

ところが、この男がとんでもないアル中の暴君で、昼間からウイスキーを飲んでは子供たちへの虐待を繰り返す。
メイソンを無理矢理床屋へ引っ張っていき、坊主頭にしてしまうシーンが非常に痛々しい。

メイソンの潤んだ目を見ていると、とても演技とは思えず、コルトレーン自身がマジで泣きそうになっているかのようだ。
結局、母はメイソンとサマンサを連れてビルの下を逃げ出し、教師の勉強をしながら2人の子供を育てる羽目になる。

その間に15歳になり、高校へ行く年ごろのメイソンとサマンサに、たまに会いに来る父メイソン・シニアは「セックスをするときはコンドームをつけろ」と〝性教育〟を施す。
「おれとお母さんは避妊をを忘れたからお前たちができたんだ、だから親として何もできない年ごろに親になっちまったんだよ」と。

父はいいトシになってもミュージシャンになる夢が捨てられず、「どうしてちゃんと働かないの?」とメイソンに突っ込まれて口ごもったりする。
そう言うメイソン自身もまた、ワルを気取った連中とつきあい、15歳でビールを飲んだり、マリファナを吸ったりする。

しかし、そんな不良っぽい行為に手を染めても、メイソンは決して学校からドロップアウトしたり、自暴自棄になって犯罪に走ったりはしない。
寡黙で内省的で、どこか陰りのある性格をしていながら、やがてカメラにのめり込み始め、アート写真を撮ることに人生の目的を見出すようになる。

メイソン一家はアメリカの格差社会における負け組であり、典型的なプア・ホワイトと言っていい。
事件らしい事件は何も起こらず、アル中の継父以外にはこれといった悪役も登場しない。

引きこもりがちのメイソンを諭す高校の先生、アルバイト先のファーストフード店の店長など、むしろ人生の節目節目でいい出会いに恵まれている。
まあ、高校を出るまでの少年期って、大なり小なり、誰でもこういうもんだろうな、と思いながら見ているうち、ついにメイソンは卒業を迎える。

卒業式を祝うために、ろくでなしだった父をはじめ、ここまでメイソンの成長に関わってきた人たちがやってくる。
ここで、僕は感動した。

この感動にまた、驚きが伴っていた。
もちろん、青春映画を見て感動したことならいままでに何度もあるが、この作品の場合は「感動」の質がだいぶ違うような気がするのだ。

幼少期から交代した別の俳優ではなく、現実に6歳から18歳になったメイソン=コルトレーンが目の前にいる。
父メイソン・シニア=ホーク、母オリヴィア=アークエット、姉サマンサ=ローレライたちもまた、みんなそれぞれ、現実に12年の歳月を経た顔をしている。

そして、母と息子が、人生と時間について忘れ難いセリフを口にする。
その言葉を聞いた途端、166分という上映時間に凝縮された12年と時間が、僕の身体に流れ込んでくるような感動を覚えたのだ。

これはやはり、役者を代えたり特祝メイクに頼ったりせず、現実にひとりの人間を12年間、ドキュメンタリーではなく劇映画として撮り続ける、というリンクレイター監督独自の手法がもたらした効果だろう。
ぼくのような中途半端な物書きにとっては、リアリティーとは何か、人間を描くとはどういうことか、改めて考えさせられた映画である。

採点は85点(オススメ度A)。

旧サイト:2015年03月8日(日)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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