『さらば冬のかもめ』(WOWOW)🤗

The Last Detail
104分 1973年 アメリカ=コロンビア・ピクチャーズ 日本公開:1976年

前項『30年後の同窓会』(2017年)の原作小説を書いたダリル・ポニクサンが1970年に発表した小説の映画版で、アメリカン・ニューシネマの佳作という評価が定着している。
原作自体は『30年後の同窓会』の前日譚だが、映画版はそれぞれ独立した別個の作品として製作された。

アメリカでニューシネマの傑作『ファイブ・イージー・ピーセス』(1970年)の3年後、日本ではその3年後に公開されたタイミングは、両作品に主演したジャック・ニコルソンの人気の上昇ぶりとリンクしている。
監督はのちに『帰郷』(1978年)でアカデミー監督賞にノミネートされたハル・アシュビー、脚本はニコルソン主演のミステリー『チャイナタウン』(1974年)でアカデミー脚本賞を受賞したロバート・タウン、撮影は『タクシードライバー』(1976年)の斬新なルックで名匠となったマイケル・チャップマン。

ノーフォーク海軍基地に勤務するうだつの上がらない下士官バダスキー(ジャック・ニコルソン)、マルホール(オーティス・ヤング)に、懲戒除隊と懲役8年の判決を受けた元水兵の囚人メドウズ(ランディ・クエイド)をポーツマス海軍刑務所まで護送しろ、という命令が下る。
メドウズはまだ未成年で入隊したばかり、罪状は海兵隊の隊長夫人が主宰するポリオ(小児麻痺)基金の募金箱からたったの40ドルを盗んだことだった。

ところが、バダスキーとマルホールが護送を始めた途端、メドウズは金を盗んではいない、募金箱に手をかけた途端、たちまち逮捕されてしまったのだと告白。
メドウズは子供のころから手癖が悪く、入隊前に万引きで2度逮捕された前科があり、隊長夫人の偏見から不当な量刑を受ける羽目になったらしい。

そんな不当な濡れ衣があるものかと、バダスキーもマルホールも大いに憤慨し、メドウズに同情するものの、だからといって任務に背き、脱走させてやるわけにもいかない。
ノーフォークからポーツマスまでの道程は直行すれば2日しかかからないが、任務に与えられた期間は1週間、しかもバダスキーとマルホールには日数に応じた日当が出る。

バダスキーとマルホールは、自分たちが出張先で遊ぼうと考えていたこともあり、メドウズが刑務所送りになる前、娑婆の味をたっぷり味わわせてやろうと、ワシントン、ニューヨーク、ボストンで降ろしては羽目を外す。
パブでメドウズにビールを飲ませようとしてバーテンダーと喧嘩になったり、若いオネーチャンのあとについて行って南無妙法蓮華経とお経を唱えている日蓮正宗の集会に紛れ込んだり(このくだりで出てくるナンシー・アレンは本作がデビュー作だった)。

旅の終わりが近づく中、バダスキーとマルホールはメドウズが童貞だと知り、売春婦を抱かせてやる。
こういうくだりのわびしくもしっとりした味わいが、70年代のアメリカンニューシネマならではだ。

そして、いよいよ刑務所入りを目前に控え、3人でささやかなお別れの会としてバーベキュー・パーティーをやろうとしていた矢先、突然逃げ出したメドウズを
バダスキーが捕まえる。
「逃がしてくれ、お願いだ」と懇願するメドウズを、バダスキーが「ふざけるな! この野郎」と罵りながら何度も殴りつける場面が切ない。

テーマ、筋立て、キャラクター設定からして、もっと感涙を絞り取るような演出や見せ方をすることもできたはずだが、ハル・アシュビーは優しさをにじませながらも感情に流されず、あえて登場人物たちを突き放し、一定の距離感を持って彼らの道行を追い続ける。
マルホールが「こんな任務は懲り懲りだ」と吐き捨てるそっけないまでの幕切れも非常に秀逸。

お勧め度はA。 

旧サイト:2016年08月7日(日)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
Scroll to top