『運命を分けたザイル』(WOWOW)🤗

Touching the Void
107分 2003年 イギリス:パテ 日本公開:2005年 アスミック・エース 

実際に起こった遭難事故を題材とした山岳映画は多いが、生還した当事者の登山家がインタビューに答え、ナレーターまで務めている作品は初めて見た。
再現ドラマは役者を使ったフィクションながら、非常にクオリティーが高く、このジャンルでは傑作の1本に数えていい。

1985年、ペルーのアンデス山脈にある未踏峰の難関、標高6600mのシウラ・グランデ峰に若き英国人クライマー、25歳のジョー・シンプソンと21歳のサイモン・イェーツが挑む。
ジョーとサイモンは現地でリチャード・ホーキングという若者と知り合って意気投合、自分たちが登頂してから戻ってくるまでの間、リチャードがベースキャンプで留守番をすることになった。

シウラ・グランデは脆い氷壁が続き、山頂近くはさらに崩れやすい粉雪が張り付いた40°の絶壁。
再現映像ではジョーをブレンダン・マッキー、サイモンをニコラス・アーロンという俳優が演じており、実際に事故が起こったアンデスでロケや空撮を敢行したそうで、どうせ作り物だろうとたかをくくって見ているうちにグイグイ引き込まれる。

3日間かけて攀じ登り続けた続けたジョーとサイモンは見事に初登頂に成功、肩を抱き合って喜び合う。
しかし、「遭難事故は80%下山の最中に起こる」というジョーのナレーションの直後、そのジョーが滑落して右足を骨折。

このとき、後ろにいたサイモンは、「えらいことになったと思った。正直、どうせなら、ジョーが落ちてくれればよかったと考えたよ。そうすれば、ぼくひとりで下山できるから」と本音を吐露している。
そして、やむなくペースを落として下山していた最中、ジョーがふたたび滑落、「このままではふたりとも死んでしまう」と判断したサイモンはナイフでザイルを切断する。

ジョーが死んだと考えたサイモンがひとりで山を下りている間、切り落とされたジョーはクレバスの底深くに転落しながら、なお生きていた。
ザイルの切り口を見てサイモンが何をしたかを知り、クレバスの入り口に上ろうとしても右足が折れていて叶わず、厳しい寒さと夜の暗闇に正気を失いそうになりながら、ジョーは「どこかに地上に通じている出口があることを願って」クレバスの底へと下りてゆく。

ここから先、ナレーションと再現ドラマで描かれるサバイバルの過程は、過剰な演出が施されておらず、むしろ淡々と、というよりいっそ単調に描かれているぶん、見ていてつらくなる。
一方、ザイルを切って先に下山したサイモンは、すぐにベースキャンプを撤収する踏ん切りがつかず、留守番していたリチャードとともにジョーの生還を4日間待ち続ける。

結果的には、このサイモンの優柔不断さが、飢えと渇きでボロボロになり、ほとんど片足で下りてきたジョーを救った。
ザイルを切ったサイモンの行為は山岳界で長らく批判の的となっさが、ジョーはサイモンをかばい続け、骨折が癒えてからふたたび山に復帰したという。

監督は本作ののち、『ラストキング・オブ・スコットランド』(2006年)、『消されたヘッドライン』(2009年)などで劇映画に進出したケヴィン・マクドナルド。
個人的には、こういうドキュメンタリーのほうが見せ方がうまく、切れ味の鋭さを感じた。

オススメ度A。

旧サイト:2017年10月9日(月)付Pick-up記事を再録、加筆

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※再見、及び旧サイトからの再録

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17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A
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14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
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6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
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3『宇宙戦争』(2019年/英)B
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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