『ダンケルク』(WOWOW)

Dunkirk

 第2時世界大戦中の1940年5月24日から6月4日、フランスのダンケルクで行われた連合国側の大規模救出ミッション「ダイナモ作戦」(別名:ダンケルク大撤退)を描いた実話ダネ。
 特異な世界観で知られるヒットメーカー、クリストファー・ノーランが監督・脚本・製作の1人3役で映画化に取り組んだなかなかの力作である。

 この大がかりな作戦を描くにあたり、ノーランは「陸(桟橋)での1週間」「海での1日」「空での1時間」に分割。
 それぞれのパートの登場人物たちが、作戦の大詰めに向けて距離を詰めてゆき、クライマックスにおいて彼らの運命が交錯するというストーリーを練り上げた。

 開巻、まず「陸」のパートでは、トミー(フィン・ホワイトヘッド)、アレックス(ハリー・スタイルズ)、ギブソン(アナイリン・バーナード)ら若い兵士たちが、ダンケルクの浜辺にかけられた桟橋から駆逐艦に乗り込もうとして失敗。
 ここで撤退作戦を指揮するボルトン海軍中佐(ケネス・ブラナー)は、作戦遂行の現場がフランスであるにもかかわらず、チャーチル首相がイギリス人以外救出する意思がないことを部下に伝えていた。

 続いて「海」のシークェンスでは、ダンケルクの対岸、イギリス側の港に自家用船を係留している親子の姿が描かれる。
 英軍兵士救出のために船を徴用するとイギリス海軍に通告された船主のドーソン(マーク・ライランス)は、息子のピーター(トム・グリン=カーニー)、忠実な船員ジョージ(バリー・コーガン)を連れて自らダンケルクに向かった。

 そして、「空」の場面を担うのはスピットファイアのパイロット、ファリア(トム・ハーディ)とコリンズ(ジャック・ロウデン)。
 コリンズがドーバー海峡の海上に不時着し、操縦席から抜け出せなくてもがいていたところに駆けつけた自家用船のジョージが救出するあたりから、徐々に登場人物たちの運命が絡み合い始める。

 と書くとわかりやすいが、ノーランの語り口はそれほど親切ではない、というより、かえって無用の混乱を招いているように思う。
 最初からダンケルクのダイナモ作戦に関する説明がほとんどない上、「陸」が1週間前、「海」が1日前、「空」が1時間前から始まっているにもかかわらず、この3つのパートが並行して描かれるため、まるで同時進行しているかのような錯覚を起こさせるのだ。

 おかげで、感動的になるはずのラストが、いまひとつピンとこない結果に終わっている。
 見どころは多いのに、話術に凝り過ぎて観客を置いてきぼりにしてしまった残念な一篇。

 オススメ度B。

(2017年 イギリス、アメリカ、フランス、オランダ=ワーナー・ブラザース 107分)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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