『ハンズ・オブ・ストーン』(WOWOW)

Hands of Stone

 1980年代にウエルター級、スーパーウエルター級で一時代を築いたパナマのプロボクサー、〝石の拳〟ロベルト・デュランの半生記。
 シュガー・レイ・レナード、トーマス・ハーンズ、マービン・ハグラーら同時代のライバルたちとの熱戦は、当時学生だったぼくもテレビやビデオで何度か見た。

 狩撫麻礼・作、谷口ジロー・画のボクシング劇画『青の戦士』(1980~81年)では、主人公の日本人ボクサーがクライマックスでレオベルテ・ゲランというデュランをモデルとしたチャンピオンと対戦する。
 それぐらい、デュランは日本のファンの間でも人気が高く、お馴染みの存在だった。

 引退後の1992年には来日してプロレス団体・藤原組のリングに上がり、船木誠勝と異種格闘技戦で対戦したりもしている。
 ただし、Tシャツとジャージ姿という明らかにおふざけ半分の態度で、結果も3ラウンド腕固めでデュランの負け。

 そんなデュラン(エドガー・ラミレス)は、まだ第2次世界大戦の余韻が残る1951年、パナマのスラム街に生まれた。
 青年期にはパナマで民族独立運動の機運が高まり、アメリカが建設、管理していたパナマ運河を返還するべきだという世論が国中で高まっていた。

 映画はこの歴史的背景とデュランの半生とを平行に描いて、デュランが非常に熱心な愛国青年であったことを強調。
 その半面、すぐにエキサイトする暴れん坊で、まともな教育を受けていなかったため、結婚して子供ができる年齢になってからもろくに字すら読めなかった。

 ジャック・デンプシーが文盲だったのは有名な話だが、デュランもそうだったとは、この映画を見るまで知らなかった。
 デュランが「オレには何が書いてあるかわかんねえんだよ」と妻フェリシダード(アナ・デ・アルマス)にぼやいて新聞を読んでもらうシーンには、さすがに本当だろうかと首をひねりたくなった(でも、たぶん本当なんだろうな)。

 そんなデュランに手取り足取りボクシングを教え、チャンピオンに育て上げたのが名トレーナーのレイ・アーセル。
 演じているのはめっきり老け込んだロバート・デ・ニーロで、かつてはマフィアのドンを演じて鳴らした役者が、ここでは八百長への協力を拒否してマフィアにつけ狙われている役どころである。

 という具合に、いろいろと興味深い見どころは多いのだが、いかんせんボクシングの試合の場面が迫力不足。
 肝心のデュランを演じるラミレスも、身体作りはしっかりやっているが、いまひとつ魅力とリアルな雰囲気に乏しい。

 そのあたり、もう少し頑張れば『ザ・ファイター』(2010年)並の快作になったのに、惜しかった。
 オススメ度B。

(2016年 アメリカ、パナマ=ワインスタイン・カンパニー/日本配給2017年=カルチュア・パブリッシャーズ 107分)

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2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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