『墨攻』(WOWOW)

 日本の歴史小説家・酒見賢一の同名原作小説(第104回直木賞候補作)を、中国、香港、韓国、日本と4カ国がかりで映画化したアクション大作。
 作画・森秀樹、脚本・久保田千太郎による漫画版は〈ビッグコミック〉連載時(1992~96年)にぼくも読んでいて、その「梁城編」が映画版のベースになっている。

 主人公・墨家の革離に香港のスター俳優アンディ・ラウ、敵対する張軍の巷淹中将軍に韓国の国民俳優アン・ソンギ、革離の恋人・逸悦には中国の美人女優ファン・ビンビンと、キャスティングはなかなか国際色豊かな顔ぶれ。
 日本からは大林宣彦、原田眞人監督と組んだ作品の多い名カメラマン・阪本義直、数多くのアニメやテレビドラマで知られる音楽・川井憲次が参加している。

 舞台は紀元前370年の中国、燕を滅ぼそうと進軍を続ける趙の軍隊は、燕と国境を接する小国・梁城が邪魔だとばかりに猛攻撃をかけていた。
 巷淹中率いる10万人の大軍の前に落城寸前となった梁王(ワン・チーウェン)は、専守防衛の思想「非攻」を掲げる墨家に助けを請い、軍師を派遣するよう依頼する。

 たったひとりでやってきた革離は、演じているのがアンディ・ラウなので漫画版よりカッコ良すぎるかな。
 彼が様々な知恵と戦術を駆使して趙軍を返り討ちにするアイデアはしっかり映像化されており、大いに楽しませてくれる。

 梁城の南門に水入りの巨大な甕を用意し、この前に趙兵をおびき寄せたところで水攻めにしたり、趙兵が秘かに掘った地下道から陣内に侵入すようとすると、この坑道の中に火を放って蒸し焼きにしたり。
 さらに、クライマックスでは鉄砲水を利用して敵の軍勢を蹴散らしたりと、全編に見せ場を配置した構成がうまい。

 こうして革離が戦果を挙げ、世継ぎの息子・梁適(チェ・シウォン)、梁城軍のリーダー・子団(ウー・チーロン)をはじめ、梁城の民衆の信望を集めるようになると、嫉妬に駆られた梁王は革離に謀反の罪を着せて排斥にかかる。
 革離は国外へ追われ、恋人・逸悦も喉を切られて声を奪われた上、地下牢に投獄されてしまった。

 梁王が革離派と見なした人民の弾圧を続け、国情が大きく揺らぎ始めたころ、趙軍が梁城への攻撃を再開。
 裏切り者として石もて追われた革離は、逸悦と人民を救うため、ふたたび梁城へ向かう。

 大量のエキストラを動員した(ように見える)壮大なロケーション撮影、CGとワイヤーアクションをミックスさせた見せ場の数々はさすが香港映画の大作。
 人間ドラマのパートもなかなかしっかり作られており、個人的には『三国志』を映画化した『レッドクリフ』(2009年)よりよっぽど面白かった。

 オススメ度A。

(2006年 中国、日本、香港、韓国/日本配給2007年=松竹、キュービカル・エンタテイメント 133分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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