
初版:2026年6月10日
戦国武将の人物像や戦国時代の陰謀論にアカデミズムの立場から分析、批判を加えてきた著者が、今度は一時ビジネス書でもブームを巻き起こした「軍師」に対する論考を試みた一冊。
俎上に乗せられている軍師は帯にもある通り、豊臣秀吉の黒田官兵衛、武田信玄の山本勘助、上杉謙信の宇佐美定満、徳川家康の本多正信、などなど。
現代でもよく知られた名だたる軍師たちが活躍した時代、実はそもそも「軍師」という言葉自体はもちろん、軍師に相当する立場や役職もなかった、という指摘から本書は始まる。
井上靖の長編小説『風林火山』(1950)の主人公で、2007年にはNHK大河ドラマにもなった山本勘助に至っては、後世に山本家の子孫が創造した〝架空の人物〟に近いという。
それではなぜ、そういう軍師が大昔の読者大衆にもてはやされ、今日に至るまで伝説的人物としてありがたがられるようになったのか、という考察が興味深い。
とくに徳川が天下を平定した時代、もはや需要のない「軍学者」が自らの地位を高め、諸大名に売り込むために戦国時代の〝架空の軍師〟を利用したのだ、という。
そうした時代的背景から、幕末になってようやく本来の「軍師」が登場するようになり、近代日本軍のあり方にまで大きな影響を及ぼした、という指摘もなるほどと思わせる。
個人的には、本書によって、幕末のヒーローだった勝海舟に対する印象もかなり変わった。
ただし、時代小説の名作を取り上げ、大作家が虚偽の資料を「掘り出し物だ」と思い込み、「小躍りして」飛びついたかのように推測で揶揄しているところはいただけない。
時代小説がフィクションであることは自明の理なのだから、歴史学者である前に同じ文章を生業とする人間として、最低限の敬意を払う表現をするべきだろう。
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