
NHKが終戦の日に合わせて企画、放送した特集ドラマだが、オープニングは意外にも1973年、手塚治虫の経営する虫プロ倒産から始まる。
高良健吾演じる手塚が株主や従業員から厳しく糾弾され、「漫画を描くのをやめて経営に専念しろ!」と言われると、「私は漫画家ですから」と答える場面が印象的だ。
約5億円の負債を抱えた手塚は、新作の生原稿を少年画報社の少年キング編集部に持ち込むが、手塚本人も自信を持てない内容だったため、あえなく掲載を断られる。
「天下の手塚治虫が持ち込みか」と陰口をたたかれる中、親しい編集者・黒川拓二(岡崎体育)に「これからは映画館の看板の下絵でも描くしかない」と打ち明けるほど追い込まれていた。
そんな手塚に、巨匠の才能はまだ涸れてはいないと信じる黒川は、「今こそ先生が本当に描きたい漫画を描いてください」と励ます。
自分が本当に描きたい漫画とは何か、手塚が思いを巡らせるところから、物語は戦時中に漫画を描いていた自伝的作品『紙の砦』(1974)へと移行していく。
この漫画の主人公は手塚が中学時代の自分をモデルにした大寒鉄郎(原田琥之佑)。
日中戦争の最中、中学校でも軍国教育が徹底されていた時代、教師の目を盗んで漫画を描いている鉄郎は体罰やイジメの対象となったが、ガキ大将の明石健司(久野渚夏)が手塚の漫画を気に入り、やがて固い友情で結ばれる。
そんな鉄郎が宝塚音楽舞踊学校に通う岡本京子(野内まる)と惹かれ合うようになった頃、鉄郎の暮らす町全体が米軍の大空襲に襲われた。
ここまで生き生きと描かれていた鉄郎、京子、明石たちの青春と日常が、空襲によってあっという間に暗転するくだりは、戦争ドラマの定石とはいえ、やはり痛切で胸に迫る。
この時期には太平洋戦争に関する様々な特集番組が放送されるけれど、本作は悲惨さをあえて前面に打ち出さず、放送時間のほとんどを手塚本人の人物像と周辺の人間ドラマが占めている。
そのぶん、青少年の夢を一瞬にして打ち砕いた戦争の残酷さ、不条理さ、むごたらしさが一層伝わってきて、これも反戦ドラマのあり方のひとつなのだと感じさせられた。
オススメ度A。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑