『ザ・商社』(全4話/NHK総合)😉

300分(全4話) 1980年 NHK
NHK総合初放送:第1回「愛する時と死する時」1980年12月5日、第2回「江坂ファミリー」同年同月6日、
第3回「セント・ジョーンズの神話」同年同月12日、第4回「日本の中の異邦人」同年同月13日
同再放送:第1、2回2022年6月4日午前0:25〜 第3、4回同年同月12日同時刻〜

今年は松本清張没後30年に当たることから、WOWOWでは新作ドラマや旧作の映画化作品を放送しているが、NHKでもこういう昔のテレビドラマ化作品を地上波で再放送している。
僕自身、本作はまったくの初見で、主演の山﨑努がツイッターで放送予定を告知し、和田勉の演出に感服したとつぶやいていただけに、大いに期待して一気に観た。

原作は清張にしては珍しく、かつて実在した総合商社の経営破綻を描いた小説『空(くう)の城』(1978年/文藝春秋)。
モデルとなったのはかつて伊藤忠商事、三菱商事、日商岩井などと並んで「十大総合商社」の末席に数えられていた安宅産業で、劇中では江坂産業という名称になっている。

1973年、江坂産業の米国法人〈江坂アメリカ〉の社長・上杉二郎(山﨑)はアメリカ東海岸で石油事業に乗り出し、NRC(ニューファンドランド・リファイニング・カンパニー)の社長アルバート・サッシン(ケン・フランネル)と接近。
ハワイ生まれの日系2世の上杉は江坂社内で「英語屋」として便利屋扱いされており、レバノン系のサッシンはニューヨークで過ごした幼少期に差別やイジメに遭っていた、という似たような過去の持ち主であることが肝胆相照らすきっかけになった。

江坂産業本社を牛耳る2代目社主・江坂要造(片岡仁左衛門)は人事権を一手に握る半面、会社の利益を音楽家のパトロンとして利用したり、数千万円の骨董品を買い漁ったりしている道楽者。
要造は自分の言うことを聞かない上杉をかねてから疎んでいたが、自分がパトロンになったピアニスト松山真紀(夏目雅子)を売り出すためにニューヨークへ行かせると、上杉に彼女の面倒を見るよう仕向ける。

真紀は原作には登場しないドラマ版のオリジナルながら、彼女のピアニストとしての出世と挫折が上杉の石油事業進出の苦境や失敗とうまくシンクロしている。
上杉が追い詰められていく最中、一時はノイローゼ状態だった真紀が再起し、胸をはだけて抱いてほしいと上杉に迫る場面では、夏目雅子が本当に乳房を見せてドキリとさせられた。

俳優のクローズアップと衝撃音を駆使した和田の演出はいま観ても迫力満点で、これに応えた山﨑、仁左衛門の熱演も大いに見応えがある。
夏目とともに、上杉の親友の娘・矢代かおるを演じる水沢アキがとてもきれいに撮られていることも記憶にとどめておきたい。

ただし、上杉とサッシンの野望が潰え、メインバンク住倉銀行の八田頭取(佐分利信)により、別の大手商社に吸収合併される展開はいささか急で、元ネタを知らないと呑み込みにくい。
要造がなぜ江坂産業を食い物にしてきたのか、最後になって明かされる真相もいささか取って付けたような印象を残すのが少々残念でした。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

62『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960年/東宝)B
61『地球の静止する日』(1951年/米)C
60『ウエストワールド』(1973年 /米)B
59『スーパーマン&ロイス』シーズン1(12)「たとえ死の谷を歩むとも」(2021年/米)B
58『スーパーマン&ロイス』シーズン1(11)「つかの間の追憶」(2021年/米)A
57『天使と悪魔』(2009年/米)A
56『キングコングの逆襲』(1967年/東宝)B
55『キング・コング』(1933年 /米)A
54『スーパーマン&ロイス』シーズン1(10)「母との再会」(2021年/米)A
53『スーパーマン&ロイス』シーズン1(9)「忠実なサブジェクト」(2021年/米)A
52『TOKYO VICE』#8剣ヶ峰(2022年/WOWOW、HBO Max)C
51『TOKYO VICE』#7不義不徳(2022年/WOWOW、HBO Max)B
50『ライトハウス』(2019年/米)C
49『TOKYO VICE』#6虚々実々(2022年/WOWOW、HBO Max)B
48『TOKYO VICE』#5因果応報(2022年/WOWOW、HBO Max)B
47『スーパーマン&ロイス』シーズン1(8)「無力な自分」(2021年/米)B
46『スーパーマン&ロイス』シーズン1(7)「鋼鉄の男」(2021年/米)B
45『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020年/米)A
44『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2018年/米)B
43『クワイエット・プレイス』(2018年/米)A
42『TOKYO VICE』#4虎穴虎子(2022年/WOWOW、HBO Max)B
41『TOKYO VICE』#3精神一到(2022年/WOWOW、HBO Max)C
40『ドニー・ダーコ』(2001年/米)B
39『スーパーマン&ロイス』シーズン1(6)「パワーの代償」(2021年/米)B
38『スーパーマン&ロイス』シーズン1(5)「スモールビルの良心」(2021年/米)B
37『TOKYO VICE』#2起死回生(2022年/WOWOW、HBO Max)B
36『TOKYO VICE』#1新聞記者(2022年/WOWOW、HBO Max)B
35『ふたりのウルトラマン』(2022年/NHK)A
34『スーパーマン&ロイス』シーズン1(4)「波乱の幕開け」(2021年/米)B
33『スーパーマン&ロイス』シーズン1(3)「人気者であることの特権」(2021年/米)B
32『カムバック・トゥ・ハリウッド‼︎』(2020年/米)B
31『すばらしき世界』(2021年/ワーナー・ブラザース)A
30『私は確信する』(2018年/仏、白)C
29『透明人間』(2020年/米)A
28『アナザーラウンド』(2020年/丁、蘭、瑞)A
27『スーパーマン&ロイス』シーズン1(2)「引き継いだもの」(2021年/米)A
26『スーパーマン&ロイス』シーズン1(1)「パワーの目覚め」(2021年/米)A
25『日本女侠伝 侠客芸者』(1969年/東映)A
24『昭和残俠伝 血染の唐獅子』(1967年/東映)B
23『大コメ騒動』(2021年/ラビットハウス)C
22『王の願い ハングルの始まり』(2019年/韓)A
21『フラッシュ・ゴードン』(1980年/米)B
20『タイムマシン』(2002年/米)C
19『アンダーウォーター』(2020年/米)C
18『グリーンランド−地球最後の2日間−』(2020年/米)B
17『潔白』(2020年/韓)B
16『ズーム/見えない参加者』(2020年/英)C
15『アオラレ』(2020年/米)B
14『21ブリッジ』(2019年/米)B
13『ムニュランガボ』(2007年/盧、米)C
12『ミナリ』(2020年/米)A
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
10『死霊の罠』(1988年/ジョイパックフィルム)C
9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
8『VHSテープを巻き戻せ!』(2013年/米)A
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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