『ゼロの焦点』(1961年版/WOWOW)🤨

95分 モノクロ 1961年 松竹

日本を代表する推理小説作家・松本清張の代表作が初めて映画化された1961年の作品。
『張込み』(1958年)から『砂の器』(1978年)まで、様々な清張作品でコンビを組んだ当時の名匠・野村芳太郎が監督を務め、橋本忍が脚本を書き、山田洋次が共同脚本と助監督で参加している。

原作は随分昔に読んでいて、犬童一心が監督し、広末涼子が鵜原禎子、中谷美紀が室田佐知子を演じた2009年の2度目の映画版もWOWOW初放送時に観ている。
まだ太平洋戦争の影響が色濃く残っている1958年頃という時代背景が重要な作品なので、映画化作品も2009年版よりこの1961年版のほうが原作の性格をより忠実に再現しているはずだと期待していた。

昔の上野駅や金沢でロケ撮影が行われているところは、セットやCGを駆使していた2009年版よりもリアリティを感じさせる。
この調子なら本筋に入ってからもさぞかし面白くなるだろうと思ったら、野村も橋本も後半から大胆に原作を改変して、作品の「焦点」をまったく違うところにずらしてしまっていることに唖然とさせられた。

原作でも2009年版でも、パンパン(アメリカ軍将兵相手の売春婦)の使う英語が真相解明の重要な手がかりになっている。
そこから、禎子が亡夫の足取りを追ううちに佐知子の存在に行き当たり、実は彼女がパンパンだった過去を無かったことにしてしまいたかったことがわかってくる、というストーリーが本作のキモであり妙味なのだ。

ところが、野村と橋本の名匠コンビはそういうボトムのテーマにまるで興味を覚えなかったようで、高千穂ひづる演じる佐知子の描き方はまことに平板でおざなり。
これでは元パンパンが単なる私利私欲のために人殺しに走ったかのようにしか見えない。

クライマックスの能登金剛・ヤセの断崖の天辺で繰り広げられる禎子(久我美子)と佐知子の対決は、のちに多くのオマージュやエピゴーネンを生んだそうだが、両者の言い分が以前の話になったり最近の出来事になったり、異なる時系列を行ったり来たりするのでいささかわかりにくい。
しかも、2009年版が忠実に再現した佐知子の最期も、本作では禎子による〝ナレ死〟で処理されていて、あまりにあっけなさ過ぎるように思う。

オススメ度C。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

63『ザ・商社』(1980年/NHK)B
62『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960年/東宝)B
61『地球の静止する日』(1951年/米)C
60『ウエストワールド』(1973年 /米)B
59『スーパーマン&ロイス』シーズン1(12)「たとえ死の谷を歩むとも」(2021年/米)B
58『スーパーマン&ロイス』シーズン1(11)「つかの間の追憶」(2021年/米)A
57『天使と悪魔』(2009年/米)A
56『キングコングの逆襲』(1967年/東宝)B
55『キング・コング』(1933年 /米)A
54『スーパーマン&ロイス』シーズン1(10)「母との再会」(2021年/米)A
53『スーパーマン&ロイス』シーズン1(9)「忠実なサブジェクト」(2021年/米)A
52『TOKYO VICE』#8剣ヶ峰(2022年/WOWOW、HBO Max)C
51『TOKYO VICE』#7不義不徳(2022年/WOWOW、HBO Max)B
50『ライトハウス』(2019年/米)C
49『TOKYO VICE』#6虚々実々(2022年/WOWOW、HBO Max)B
48『TOKYO VICE』#5因果応報(2022年/WOWOW、HBO Max)B
47『スーパーマン&ロイス』シーズン1(8)「無力な自分」(2021年/米)B
46『スーパーマン&ロイス』シーズン1(7)「鋼鉄の男」(2021年/米)B
45『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020年/米)A
44『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』(2018年/米)B
43『クワイエット・プレイス』(2018年/米)A
42『TOKYO VICE』#4虎穴虎子(2022年/WOWOW、HBO Max)B
41『TOKYO VICE』#3精神一到(2022年/WOWOW、HBO Max)C
40『ドニー・ダーコ』(2001年/米)B
39『スーパーマン&ロイス』シーズン1(6)「パワーの代償」(2021年/米)B
38『スーパーマン&ロイス』シーズン1(5)「スモールビルの良心」(2021年/米)B
37『TOKYO VICE』#2起死回生(2022年/WOWOW、HBO Max)B
36『TOKYO VICE』#1新聞記者(2022年/WOWOW、HBO Max)B
35『ふたりのウルトラマン』(2022年/NHK)A
34『スーパーマン&ロイス』シーズン1(4)「波乱の幕開け」(2021年/米)B
33『スーパーマン&ロイス』シーズン1(3)「人気者であることの特権」(2021年/米)B
32『カムバック・トゥ・ハリウッド‼︎』(2020年/米)B
31『すばらしき世界』(2021年/ワーナー・ブラザース)A
30『私は確信する』(2018年/仏、白)C
29『透明人間』(2020年/米)A
28『アナザーラウンド』(2020年/丁、蘭、瑞)A
27『スーパーマン&ロイス』シーズン1(2)「引き継いだもの」(2021年/米)A
26『スーパーマン&ロイス』シーズン1(1)「パワーの目覚め」(2021年/米)A
25『日本女侠伝 侠客芸者』(1969年/東映)A
24『昭和残俠伝 血染の唐獅子』(1967年/東映)B
23『大コメ騒動』(2021年/ラビットハウス)C
22『王の願い ハングルの始まり』(2019年/韓)A
21『フラッシュ・ゴードン』(1980年/米)B
20『タイムマシン』(2002年/米)C
19『アンダーウォーター』(2020年/米)C
18『グリーンランド−地球最後の2日間−』(2020年/米)B
17『潔白』(2020年/韓)B
16『ズーム/見えない参加者』(2020年/英)C
15『アオラレ』(2020年/米)B
14『21ブリッジ』(2019年/米)B
13『ムニュランガボ』(2007年/盧、米)C
12『ミナリ』(2020年/米)A
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
10『死霊の罠』(1988年/ジョイパックフィルム)C
9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
8『VHSテープを巻き戻せ!』(2013年/米)A
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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