『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カッブ、アル・スタンプ😁😳🤣🤔🤓

My Life in Baseball
507ページ 発行:ベースボール・マガジン社 翻訳:内村祐之
第1版第1刷:1971年10月15日 第5刷:1975年12月31日 定価1200円/古書
原書発行:1961年 

前項の映画『タイ・カップ』の原作とされているアル・スタンプ代筆の自伝で、ずいぶん昔に邦訳が出ているとは最近まで知らなかったから、スポーツ専門古書店〈ビブリオ〉で見つけたときは飛びつくようにして買った。
映画版は散々自分の暗部や欠点を見せつけたカッブが、「おまえの好きなように書けばいい」とスタンプに言い残して死に、「結局、ウソを書いた」とスタンプが告白して終わっている。

だから、読む前はさぞかし眉に唾つけたくなるような綺麗事で埋め尽くされているのだろうと思っていたら、なかなかどうして、攻撃的な性格で知られていたカッブだけに、自分と敵対していた球界やマスコミの関係者をこれでもかとばかりにやっつけているのが面白い。
とくに何度も俎上に上げられているのが、カッブがプレーしたデトロイト・タイガースのオーナー、フランク・ナヴィンで、毎年のように年俸交渉でいがみ合い、カッブが監督になってからでさえ1セントも経費を出そうとしなかった、という内幕を生々しく語っている。

この遺恨の対決は、ナヴィンがコミッショナーのケネソー・マウンテン・ランディス、アメリカン・リーグ会長のバン・ジョンソンと組み、カッブに八百長の容疑をかけて永久追放しようとした終盤のくだりでクライマックスに達する。
ここは映画版で端折られていたところだが、カッブの「八百長などできるわけがない」という釈明は極めて理路整然としており、スタンプも納得した上で書いているように読める。

また、カッブの悪名を決定づけた〝殺人スライディング〟についても事実無根と主張。
故意に相手野手に激突しようと回り込んだり、刃をヤスリで磨いたスパイクで相手の内野手を蹴り上げようとしたりしていた、などというのはまったくの嘘っぱちだと、そういう記事を書いた記者と新聞の名前をあげて反論している。

タイガース入団当時、意地悪な先輩たちに小突かれたり、バットを折られたりと散々いじめられ、ブチ切れたときには敵味方にかかわらず殴り合いも辞さなかった、と告白しているあたりは大変勇ましい。
カッブがプレーしていた1900年代初頭の野球はルール違反も横行しており、好投手のほとんどはスピット・ボールの使い手で、ビーンボールをぶつけるのも当たり前なら、報復合戦となって大乱闘が巻き起こるのも日常茶飯事。

ベースはグラウンドに固定されておらず、カッブは塁に出て牽制されたら少しでも早く帰塁できるよう、こっそり位置をずらしていたという。
また、ホームのナヴィン球場では三塁線へのバントヒットを決めるため、ゴロの勢いが死ぬようわざと内野の芝生を刈らずに伸び放題にしておいた、などというセコい手も使っていた。

とはいえ、打撃、走塁、守備の技術を解説しているくだりにくると、さすがはいまも大リーグ史上1位の通算打率3割6分7厘を誇る名選手だけあり、大変読み応えのある持論を展開している。
とくに、バントのメリットと有効性について8ページを割き、日本の川相昌弘が抜くまで通算512個の世界犠打記録を保持していたエディ・コリンズを「史上最高の二塁手」と絶賛しているのが、『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(2002年/講談社)の著者としてはちょっとうれしい。

カッブの人格形成に多大な影響をもたらした父親ウィリアムの死については、「銃砲事故」としか書かれていない。
実際は、父親の出張した隙に母親が愛人を自宅に連れ込み、浮気の現場を押さえようと父親が寝室に踏み込んだところ、母親に拳銃で射殺されたのだ(撃ったのは愛人の男のほうだったという説もある)。

父親は映画版では牧師とされていたが、少年期を振り返った本書の序盤では、父親はジョージア州選出の上院議員で、学校の校長や地元紙の編集長も務めており、カッブがいかに父親を尊敬していたかを切々と語っている。
その父親が不幸な事故で死んだのは、カッブがタイガースとの契約にこぎつける直前だったというから、これほど不幸な巡り合わせもない。

スタンプはカッブが死んだ1961年にこの自伝を出版し、その33年後、1994年に自伝のダークサイド版とも言うべき”Cobb: The Life and Times of the Meanest Man in Baseball”を発表。
映画版の元になったのはこちらのほうで、現在ではこのスタンプの暴露本こそ嘘やでっち上げが多く、カッブの人格を不当に貶めるものであるとして、ウィキペディアなどでも散々批判されている。

ただし、そのウィキペディアのタイ・カッブの項目にもあやふやな点が多いので、映画版と同様に鵜呑みにはできない。
2015年にコッブの新たな伝記を執筆したチャーリー・リーセンは、カッブについてスタンプがさまざまな捏造を行ったことは間違いないと結論づけているそうだが、どこかこの本の邦訳を出してくれる出版社はないものか。

😁😳🤣🤔🤓

2021読書目録
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11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔🤓

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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