『ブラック・クランズマン』(WOWOW)🤗

BlacKkKlansman 
135分 2018年 アメリカ:フォーカス・フィーチャーズ 日本公開:2019年 パルコ

スパイク・リーが監督、脚本、製作の1人3役を務めた作品、と聞いただけで、人種差別をテーマとした中身や雰囲気がある程度は予想できてしまい、劇場公開時は映画館まで足を運ぶ気にならなかった。
ところが、WOWOW初放送時、気乗りしないままに観始めたら、テーマ性以上にエンターテインメント色が前面に打ち出されていて、笑いあり、サスペンスあり、ツッコミどころも満載で、すっかり引き込まれてしまった。

1970年代、コロラド州コロラドスプリングス警察署で初めてアフリカ系アメリカ人(黒人)として警察官となった実在の人物、ロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。
資料室で先輩の白人警官にいじめられ、潜入捜査官を志願し、白人至上主義集団クー・クラックス・クラン(KKK)に潜り込もうと企む。

ロンはまずKKKのコロラド支部長ウォルター・ブリーチウェイ(ライアン・エッゴールド)、全国的指導者で理事を務める政治家デヴィッド・デューク(トファー・グレイス)に電話をかけ、白人を装ってKKKに入会したいと持ちかける。
この場面のワシントンの一人芝居が傑作で、「オレはニガーが大嫌いだ! オレの妹に声なんかかけやがって!」と口を極めて罵っている姿がおかしくてたまらない。

デュークはロンの長広舌にすっかり感銘を受け、ロンが「オレが本当は黒人だとは思わないのか?」とツッコミを入れると、「いやいや、ニガーのしゃべり方は聞くだけですぐにわかるんだよ」などと、受話器の向こうでしたり顔をしているところがまた笑える。
このあたり、白人と黒人の発音の違いも詳しく解説されており、英語が理解できればもっと興味深く観ることができるのだろう。

さて、もちろん黒人のロンがKKKに入会できるわけはないから、白人でユダヤ人のフリップ・ジマーマン(アダム・ドライヴァー)が替え玉としてコロラド支部に潜入。
支部長のウォルターは意外にも非暴力主義者で物分かりのいいタイプだったが、影の実力者フェリックス・ケンドリクソン(ヤスペル・ペーコネン)がフリップをユダヤ人ではないかと疑い、ネチネチと嫌がらせを繰り返す。

フリップとじっこんの間柄となったウォルターは、彼を後任の支部長にしようとデュークに推薦し、これに怒ったフェリックスはフリップの正体を暴こうと執拗につけ狙う。
その最中、デュークがコロラドにやってきてKKKの集会に参加することになり、初めてフリップと対面。

ここでブリッジス署長(ロバート・ジョン・バーク)はなんと、ロン本人にデュークを警護するよう指示。
こうして潜入捜査に関わる主要人物が全員揃った中、会員が白覆面をかぶって参加したKKKの集会で、デュークは堂々と、厳かに、かつ高らかに白人至上主義の理念を謳い上げる。

同じ日、コロラドでは黒人大学生の自治会長パトリス・デュマス(ローラ・ハリアー)が、差別の実態を訴える伝道師ジェローム・ターナー(ハリー・ベラフォンテ)を招いて黒人集会を開催していた。
デュークとターナーの演説が入れ替わりに描かれる中、フェリックスは陸軍のKKK会員から秘かに提供されたプラスチック爆弾で黒人集会の会場を爆破しようとする。

クライマックスでは笑いの要素はすべて吹き飛び、いったいどうなることかと手に汗握らないではいられない。
すべてが決着したあとには、いまもアメリカで現実に頻発している人種の分断と対立を象徴するニュース映像を挿入し、観ているこちらの背筋を伸ばすメッセージを送ってくるのもスパイク・リーならでは。

オススメ度A。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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