『ビリーブ 未来への大逆転』(WOWOW)😉

On the Basis of Sex 
120分 2018年 アメリカ=フォーカス・フィーチャーズ
日本配給:ギャガ 2019年

『博士と彼女のセオリー』(2014年)でホーキング博士夫人を演じたフェリシティ・ジョーンズがアメリカ合衆国最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグを熱演している伝記映画。
1953年、まだ校舎に女子トイレがなかった時代のハーバード大学法科大学院(ハーバード・ロースクール)に入学して弁護士となり、法曹界にはびこる女性差別撤廃のために闘う姿が描かれる。

ギンズバーグは大変な頑張り屋だったようで、ロースクールに入学したときは税法学専門の弁護士を目指している夫マーティン(アーミー・ハマー)とまだ幼い長女がいながら、主婦業と兼業で勉学に励む。
夫が精巣がんで入院すると、夫と自分の授業両方を受講してレポートを書き、夫がニューヨークの法律事務所に就職したら、家庭生活を維持するために自らもボストンのハーバード大学の学位を持ってNYのコロンビア大学へ移籍することを決心。

ロースクールの学長アーウィン・グリスウォルド(サム・ウォーターストン)は女性を見下している古いタイプの人間で、成績優秀なギンズバーグのコロンビア大学に取られたくないことから、彼女の希望を突っぱねる。
それならばと独断でコロンビア大学に移籍したギンズバーグは、見事に首席で卒業して弁護士資格を取得。

男だったらたちまち大手法律事務所から引っ張りだことなるところだが、ギンズバーグはユダヤ人、女性、しかも子持ちであることがハンデとなり、面接にすらなかなかこぎつけず、12の事務所に就職を拒否され、仕方なくラトガース大学の教師に転身。
ここでの講義を通じて、現行の法律に数多く残っている女性差別と、それが憲法違反であることについて学生たちを啓蒙するようになる。

一方、家庭では成長した長女ジェーン(ケイリー・スピーニー)がヴェトナム反戦運動から左翼思想にのめり込んでしまい、しばしば衝突を繰り返して親子間・世代間の対立に発展する、というくだりが大変興味深い。
そうした最中、ギンズバーグは夫マーティンが抱え込んだ案件、独身男性が年老いた母親のために介護士を雇おうとしたところ、男性であることを理由に所得税控除を受けられない、という問題に着目する。

当時の法律では、介護費用に関する所得税控除を受けられるのは、①女性、②男性であれば妻と離婚・死別した独身の場合、③男性の既婚者なら妻が入院しているか、障害を抱えている場合に限られる、となっていた。
これは男性は社会に出て仕事、女性は家庭に入って家事をするべき存在、という性差別の前提に立って作られた法律であり、合衆国憲法違反に相当するのでははないか。

こう考えたギンズバーグは自ら原告のチャールズ・モリッツ(クリス・マルケイ)の弁護を引き受け、公民権運動家ドロシー・ケニヨン(キャシー・ベイツ)やアメリカ自由人権協会(ACL)のメル・ウルフ(ジャスティン・セロー)に協力を依頼。
奮闘を続ける母に理解を示すようになったジェーンにも後押しされ、控訴裁判で法律の解釈をめぐって争うことになる。

クライマックスにおけるギンズバーグの弁論はまことに見事で、一般的な説得力も十分だとは思う。
が、あまりに単純化されていて、法廷劇というよりはスポーツの試合のようにも見える。

フェリシティ・ジョーンズは大変な熱演ながら、徹頭徹尾〝正義の味方〟かつ〝働くアメリカ人女性の鑑〟であり過ぎ、陰り、弱み、人間臭さが希薄で、『博士と彼女のセオリー』のホーキンス博士夫人に比べるとキャラクターが類型的になっているような印象も受けた。
このあたりは、ジョーンズ本人、及び女性監督ミミ・レダーが、アメリカ女性の支持が高く、80歳にしていまなお現役、本作のエンディングにも登場するギンズバーグ判事本人を立派に描こうと力んだ結果だろうか。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの採録

40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る