『さすらいの一匹狼』(NHK-BS)

Per il Gusto di Uccidere/88分 1966年 イタリア、スペイン 日本公開1967年 

今年8月、NHK-BS〈プレミアムシネマ〉で放送された『皆殺し無頼』、『リンゴ・キッド』(ともに1966年)と同じく、〝埋もれたマカロニウエスタン〟シリーズの1本である。
いや、番組表にそう銘打たれているわけではなくて、私が勝手に名付けただけのシリーズなんですけどね。

この『さすらいの一匹狼』は個人的に中学生のころこのトシまで、〝幻の名作〟となっていた1本。
中学時代、RCAレコードのLPレコード2枚組セット『マカロニ・ウエスタン・テーマ ゴールド・デラックス』に本作のテーマ曲が収録されていて、これが滅茶苦茶カッコよく、何度も聴き直していたものです。

社会人となっていた1994年、キングレコードからシリーズ全4巻として発売されたCD『究極のマカロニ・ウエスタン』にはテーマ曲に加え、作曲したニコ・フディンコ自ら歌った主題曲も入っていた。
ライナー・ノーツによると、本作の劇場公開時には日本でのみサウンドトラック盤も発売されたそうだから、いかに人気が高かったかわかる。

ただし、肝心の映画はセルジオ・レオーネやセルジオ・コルブッチ監督、クリント・イーストウッドやフランコ・ネロ主演の人気作品とは違い、監督も俳優も日本では売れていなかったためか、テレビの深夜映画ですら吹替版が放送されず。
そろそろぼくの記憶からも薄れかけていたいまになって、突然〈プレミアムシネマ〉でオンエアされたのです。

開巻、砂漠の彼方から馬に乗ってくる主人公ランキー・フェロー(クレイグ・ヒル)の姿にいきなりフディンコの熱唱する主題曲がかぶさる。
マカロニによくあるオープニングだなあ、と思ったら、歌が終わるまでクレジットが出てこず、次に主題曲がかかってからタイトルがご丁寧にも3度続けて映し出された。

フェローの武器はこの時代にはなかったはずの望遠照準器付きライフル。
出だしで早速こいつを使うかと思わせておいて、結局は映画が終わるまで2回しかぶっ放さない。

フェローはマカロニ定番の賞金稼ぎなのだが、単に無法者狩りして回っているだけでなく、銀行家や鉱山主と契約を結び、黄金や現金の輸送中、盗賊から護衛することで報酬を得ている。
一方、黄金を狙う盗賊の首領ガス・ケネベック(ジョージ・マーティン)はフェローにとって、かつて自分の弟を背後から撃ち殺した憎き敵でもあった。

図式としては勧善懲悪の復讐譚ながら、フェローがケネベックの子分を捕まえて拷問にかけたり、ケネベックの息子を誘拐したり、平気な顔して結構悪どいことをやる。
対するケネベックも、最初は冷酷無比の悪党のようでいて、実は情婦(ラダ・マッシモ)と子供をこよなく愛しているという設定が一風変わっている。

ラストのフェローとケネベックの決闘では、ケネベックがフェローのライフルを奪い、照準器で狙いをつけた次の瞬間…というアイデアが面白い。
本作が監督デビュー作となったトニーノ・ヴァレリーは『荒野の用心棒』(1964年)の助監督を務めたレオーネの愛弟子。

演出の腕前は師匠ほどではないものの、いろいろなアイデアを盛り込み、コメディ仕立ての場面も挟んで、1時間半それなりに楽しませてくれる。
エンディングではオープニングと同様、フェローが照準器を覗き、黄金を輸送中の騎兵隊、その黄金を狙う盗賊を見つけてニヤリ。

このあたりは師匠レオーネとは違うセンスを感じさせる幕切れで、ひょっとしたら続編の製作を狙っていたのか。
なお、原題の意味は「殺しの喜びのために」。

オススメ度C。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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