『ウインド・リバー』(WOWOW)

(Wind River/108分 2017年 アメリカ=ワインスタイン・カンパニー
日本公開2018年 配給KADOKAWA)

本作で監督デビューを果たし、オリジナル脚本も手がけたテイラー・シェリダンがアメリカ先住民保留区の犯罪を描いた社会派の力作。
タイトルのウインド・リバーはワイオミング州の山奥に実在する保留区で、現実にもインディアンたちが生活している。

開巻、自作の詩を詠む少女の声が流れ、満月の下、山奥の雪原を駆け続ける彼女の姿が映し出される。
画面が変わり、この地で暮らすFWS(合衆国魚類野生生物局)職員でハンターのコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)の仕事と日常生活が描かれたのち、コリーがこの雪原で少女の死体を発見。

彼女はナタリー・ハンソン(ケルシー・アスビル)という保留区に暮らす18歳の先住民だった。
殺人事件はFBIの管轄となっているため、女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)がウインド・リバーにやってくる。

検視の結果、ナタリーは零下30℃の冷気を吸い込んで血液が凍結、肺出血を起こし、自分の血を喉に詰まらせて窒息死したことが判明。
死ぬ前に複数の男にレイプされた痕跡も発見されたが、直接の死因が肺出血と窒息である以上、検視官は他殺死と認定することを拒否する。

FBIは他殺死でなければ捜査チームを編成できないため、ジェーンはコリーや地元部族警察のベン・ショーヨ(グラハム・グリーン)の協力をあおいで捜査を続けることになる。
その捜査を通じて、まだ新米のジェーンはウインド・リバーの過酷な自然環境と先住民たちのすさんだ生活ぶりに呆然としてしまう。

ナタリーはかつて惨殺されたコリーの娘エミリーの親友で、エミリーはコリーと先住民の元妻ウィルマ・ランバート(ジュリア・ジョーンズ)の間に生まれたハーフだった。
当然、コリーはナタリーの父親マーティン(ビル・バーミンガム)と友だちづきあいをしており、母親アニー(アルテア・サム)、兄チップ(マーティン・センスマイヤー)ら家族のこともよく知っている。

アニーは精神を病んでリストカットを繰り返しており、チップはしばらく前に実家を出て荒れた生活を送っていた。
チップは不良仲間との溜まり場へやってきたジェーンやベンに暴行を働き、警察に逮捕されてしまう。

自分が生まれ育った土地に呪詛の言葉を吐き続けるインディアンのチップに、コリーがぶつける言葉が印象的だ。

「この土地を選んだのはおまえだ。大学にも軍隊にも行かず、ここに住んでいる。これはおまえの選択だ」

本作はあくまでエンターテインメントだが、テイラー・シェリダンの狙いは先住民保留区の内情を描くことにあり、謎解きには重きを置いていない。
だから比較的あっさりと真犯人が判明し、一気に解決へと雪崩れ込んでいく過程もいささか性急なのが難点と言えば難点か。

それでも、独特のエンディングは最近の作品にないカタルシスを感じさせる。
コリーは最後に、ジェーンに向かってこう言う。

「ここでは運不運は関係ない。生き残るか、諦めるかしかない。強さと意思が物を言う。狼の獲物になる鹿は、不運だったんじゃなく弱かったんだ。
ジェーン、きみは戦った。生き残ろうとした。だから、家に帰れる」

チップにぶつけたセリフと対をなしていて心に沁みる。

主役のふたりはともに〈アベンジャー・シリーズ〉で名前を売ったコンビだが、それぞれレナーはホークアイ役、オルセンはスカーレット・ウィッチ役に勝るとも劣らない好演。
なお、エグゼクティヴ・プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインは本作の公開後に一連のセクハラ問題で映画界を追放され、配給元のワインスタイン・カンパニーも破産に追い込まれている。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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