『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』

Borg McEnroe

 連休最終日の24日、TOHOシネマズ日比谷へ12時10分の回を見に行ったら、ほぼ満席だった。
 錦織圭や大坂なおみの活躍でまたテニス人気が高まっているおかげもあろうが、観客の年齢層の高さからして、ビョルン・ボルグとジョン・マッケンローが主人公であることに郷愁を感じた観客も少なくなさそうである(私もそうです)。

 1980年のウィンブルドン選手権男子シングルスの決勝戦当日、ボルグとマッケンローの表情をクローズアップで映し出す場面から映画は始まる。
 〝氷の男〟ボルグに扮しているのはスヴェリル・グドナソンというボルグと同じスウェーデン人の俳優で、〝悪ガキ〟マッケンローはハリウッドの問題児として有名なシャイア・ラブーフが演じている。

 ボルグはコート上で滅多に感情を表すことなく、常に冷静沈着にプレーするスタイルで知られていたが、この映画を見ると、若いころはマッケンローに負けず劣らずワガママな性格だったことがわかる。
 とくに9歳から10代前半、試合中に癇癪を破裂させる子役の演技が秀逸で、昔のボルグもこんな感じだったのかなと思いながら見ていたら、この子役はボルグの実の息子だそうで、そっくりなのも道理。

 やがて実績を積み、世界的な有名人になるにつれて神経質なところが目立つようになり、何本ものラケットのガットの張り具合を必ず自分でチェックし、備品のタオルやサポーター、滞在先の宿舎のホテルや移動用のレンタカーまで、すべて同じでないと気がすまない。
 しかも、同じ車に乗っていてさえ、「シートの感触が違う」とシートが張り替えられていることにクレームをつける。

 あげく、ウィンブルドンの決勝戦寸前になって、幼少期に自分を見出してくれた年老いたコーチのレナート・ベルゲリン(ステラン・ステルスガルド)に突然解雇を通告。
 多少は誇張もあるのだろうが、デンマーク人の監督ヤヌス・メッツはドキュメンタリー出身だけに、大変リアリティ溢れる描写となっている。

 一方、3歳年下のマッケンローが、そんなボルグを子供のころから英雄視していたというのも興味深い。
 クライマックスのウィンブルドンの決勝戦の対決では、そのマッケンローが悪態や無礼な振る舞いを封印、歯を食いしばってボルグと戦い続け、テニス史上有名なタイブレークからの大接戦を演じる。

 この決勝戦はプラハで撮影されたそうだが、見ている間はウィンブルドンのセンターコートにしか見えない。
 ただし、試合やプレーがどこまで正確に再現されているかについては、見方の分かれるところだろう。

 製作国がスウェーデンであるためか、マッケンロー側の描写が少なく、実質的にはボルグが主役の映画になっている。
 私のようにマッケンローの人物像を掘り下げてほしかった観客にはいささか物足りないものの、とりあえず納得できる出来栄えには達していると言っていいだろう。

 採点70点。

(2017年 スウェーデン、デンマーク、フィンランド/日本配給=ギャガ 2018年 108分)

TOHOシネマズ日比谷、池袋シネクイントなどで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

2018劇場公開映画鑑賞リスト
6『ザ・シークレットマン』(2017年/米)80点
5『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(2017年/米)75点
4『万引き家族』(2018年/ギャガ)85点
3『カメラを止めるな!』(2017年/ENBUゼミナール、アスミック・エース)90点
2『孤狼の血』(2018年/東映)75点
1『グレイテスト・ショーマン』(2017年/米)90点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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