『女囚701号 さそり』(東映チャンネル)🤗

87分 1972年 東映 

梶芽衣子がブレークした映画で、現在もカルト的人気を誇る東映の女刑務所シリーズ第1作。
いまでは、タランティーノが『キル・ビル』(2003年)の元ネタにした映画、といったほうが通りがいいだろう。

監督は、これが第1作となった鬼才・伊藤俊也。
ぼくとしては萩原健一主演の『誘拐報道』(1982年)を監督した社会派という印象が強く、この『さそり』シリーズ第1作も同じような色合の強いアクション映画かと思っていた。

しかし、いざ見てみたら、伊藤が独自の様式美を前面に押し出した作品で、アクションというよりもいっそファンタジーといったほうがいいほど。
いつもの波しぶきと東映のロゴマークに、なんと国歌君が代がかぶさるという出だしからしていかにも前衛的。

国旗のモチーフは、処女だったヒロイン・松島ナミ=さそり(梶)が恋人の夏八木勲に抱かれる場面でも使われ、大胆にも破瓜の血がシーツに滲むところを日の丸にダブらせている。
梶が刑事の夏八木に利用されて犯罪を犯し、逮捕されて刑務所に収容されるまでが、極彩色のバックを使ったり、アクリル板の下からうつ伏せになった半裸の梶を撮ったりと、鈴木清順の手法を思わせる幻想的(というより悪夢のよう)なタッチで描かれる。

主な舞台となる女刑務所では、女囚たち全員が横縞のワンピースみたいな囚人服を着せられ、採石場のようなところで強制労働に従事させられている。
刑務所にもかかわらず厚化粧の女囚が多く、美容院に行ってきたばかりのようなパーマヘアまでいるのがおかしい。

何度も脱獄を繰り返しては看守のリンチに遭い、懲罰房にぶち込まれるさそりの梶も、ずっとサラサラのロングヘアにきれいな顔のまま。
冷静に見ていたらバカバカしくなる、と頭ではわかっていても、どんどん引き込まれてしまうのは、やはりこの梶の演技と存在感に負うところが大きい。

中盤の女囚たちによる内輪揉めや暴動騒ぎはそれほど面白くなかったが、さそりが様々なリンチや屈辱を耐え忍び、脱獄に成功したあかつきのリベンジは見どころたっぷり。
とりわけ、見事に夏八木を仕留めるクライマックスは、作り物めいていながら、なかなかのカタルシスを感じさせる。

最初から最後までほとんどしゃべらないさそりのキャラクターは梶自身の発案によるものだという。
自分の演技と雰囲気によっぽど自信がなければ、こんな突飛なアイデアは出せないだろう。

監督の伊藤さんには、萩原健一著『ショーケン』(2007年/講談社)の構成の仕事をしていたころ、取材に協力していただいたことがある。
いま思えば、そのときに本作も見ておいて、撮影裏話をいろいろと聞いておけばよかった。

なお、東映映画の大好きな先輩のスポーツ紙記者によれば、梶が珍しく乳房とセミヌードを見せるのは本作だけ。
「おれが若いころは、あのオッパイをかぶりつくようにして見ていたもんだ」と、横浜スタジアムの三塁側ベンチ前で熱く語っておられました。

オススメ度A。

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A


スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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