『風来坊探偵 赤い谷の惨劇』(TOEIch)

 のちに邦画界の巨匠となった深作欣二の監督デビュー作。
 開巻早々、東映映画なのに定番の波しぶきをバックとした東映マークではなく、パラマウント映画のような山を背景に「ニュー東映」というマークが浮かび上がる。

 1961年の公開当時、東映は東宝をしのぐ邦画界一番の好況に沸いており、東映のほかに新東映という別会社を立ち上げ、その配給館で若手監督やスター候補生の作品を上映していた。
 それも、毎週2本立ての新作をかけていたというから、まるで連続テレビドラマ並みのハイペースである。

 そうした中、助監督を6年務めた深作にも新進気鋭の若手監督として白羽の矢が立てられた。
 主演は東映がアクション映画の新たなスターにしようと目論んでいた千葉真一。

 上映時間はやはり連続テレビドラマ並みの1時間ちょっと。
 続編『風来坊探偵 岬を渡る黒い風』と同時に撮影を進める、いわゆる〝二本撮り〟で製作されたというから、作り方までテレビとそっくりだ。

 そのため、深作が監督として初めて臨んだ撮影現場も、本作ではなく続編のほうのファーストシーンだったという。
 しかし、これは順序が逆で、映画界の手法がのちにテレビ界に持ち込まれたのかもしれない(さすがのA先生もそこまで詳しくないもので、スミマセン)。

 内容は千葉扮する一匹狼の私立探偵が暴れ回って悪いやつらをやっつける、という〝無国籍アクション〟。
 のちに深作自身が認めているように、当時ヒットしていた日活ニューアクションのドル箱、小林旭主演の『渡り鳥』シリーズ(1959~62年/全8作)の露骨なパクリである。

 信州の赤岩岳にセスナ機が墜落し、乗っていたパイロットと不動産会社の南雲社長が死亡する、という事件が起こる。
 開巻、ニュー東映マークのバックにある山からミニチュアのセスナが飛んで来ると、いきなり煙を吐いて雪原に舞い落ちるというシーンは、いま見るとチャチだが、当時としては結構な金のかかる特撮場面だったという。

 この事故に疑問を抱いたパイロットの妹・北原しげみが墜落現場に駆けつけたところ、たちまち日活の悪役みたいな3人組に取り囲まれる。
 そこへ千葉演じる正義の味方、風来坊探偵・西園寺五郎が登場、鮮やかな手際で北原を救い出し、彼女とともに事故の真相究明に乗り出す。

 やがて、この墜落事故は南雲社長のライバル、悪徳不動産業者の須藤健による謀殺だったことが判明。
 須藤に立ち退きを迫られていた牧場の経営者・宇佐美淳也、その娘・小林裕子も味方につき、千葉は仲間たちと協力しあって悪漢一味をやっつける。

 最初は須藤に雇われていながら、途中から寝返って千葉の味方につく用心棒・曽根晴美がエースの錠(日活時代の宍戸錠のニックネーム)ならぬスペードの鉄というのが笑わせる。
 いま見ても面白い映画とは言えないが、深作ファンなら一見の価値アリ、かな。

※参考資料:『映画監督 深作欣二』(2003年/ワイズ出版)

 オススメ度C。

(1961年 東映 62分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
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92『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011年/米)B
91『エイリアン:コヴェナント』(2017年/米)B
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86『一寸法師』(1955年/新東宝)C
85『黒蜥蜴』(1962年/大映)B
84『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(1976年/日活)D
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81『泥棒成金』(1955年/米)A
80『スペース カウボーイ』(2000年/米)C
79『ソイレント・グリーン』(1973年/米)B
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76『傷だらけの栄光』(1956年/米)A
75『ハンズ・オブ・ストーン』(2016年/米、巴)B
74『ダンケルク』(2017年/英、米、仏、蘭)B
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72『関ヶ原』(2017年/東宝)
71『後妻業の女』(2016年/東宝)B
70『ショートウェーブ』(2016年/米)D
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68『ミラーズ・クロッシング』(1990年/米)C
67『シザーハンズ』(1990年/米)A
66『グーニーズ』(1985年/米)B
65『ワンダーウーマン』(2017年/米)B
64『ハクソー・リッジ』(2016年/米)A
63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
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42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
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3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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