『三度目の殺人』(WOWOW)

 いったい、役所広司演じる被告人は人殺しをしたのか、していなかったのか。
 最後まで真相が明らかにされずに終わってしまうため、マスコミやファンの間で賛否両論が巻き起こった作品。

 ぼくとしては、たとえ事件の全容が解明されなくとも、韓国映画『殺人の追憶』(2003年)のように、謎のままであるからこそ面白い、という作品になっていればいいと思う。
 その意味で、本作は前半が成功作、後半が失敗作と言えよう(ということは要するに失敗作なのだが)。

 映画の冒頭には、多摩川の河川敷で役所が殺人を犯す場面がはっきりと示される。
 被害者の背後から後頭部を鈍器のような硬い凶器(のちに裁判でスパナと判明)で何度も殴打し、絶命したことを確認してガソリンをかけ、死体を焼却。

 ここから場面は捜査、逮捕、初公判をすっ飛ばし、拘置所の役所に弁護士の福山雅治が初めて接見する場面へワープ。
 当初、役所は強盗殺人を認めていたが、週刊誌の取材に答えて被害者の妻・斉藤由貴にカネで頼まれたと証言を翻し、あげく「私は殺していません、河川敷にも言ってないんです」と犯行を全面的に否認するようになる。

 いったい役所は何を考えているのか、面会するたびに詰め寄る福山との二人芝居がこの映画の最大の見どころ。
 郷里がどちらも北海道で、役所がひとり娘と生き別れ、離婚調停中の福山にも素行不良の娘がいる、という共通点が明らかになるくだりはサスペンスフルで興味をそそる。

 そこへ、被害者の一人娘・広瀬すずが、殺された父親から性的虐待を受けていたことを告白。
 つまり、被告、弁護人、被害者の全員が中年から初老の男性で、いずれも家庭が崩壊し、しかもひとり娘がいる(いた)、という点まで一緒なのだ。

 こういう現実にはあり得ない作為だらけのシナリオであれば、やはりフィクションとして首尾結構させるオチがないと、見ている側には欲求不満が残る。
 役所の娘は登場せず、福山の娘も前半にチラリと出てくるだけで、広瀬の告白の真相も明らかにしていないのは、映画としてあまりに不親切ではないか。

 また、前半で役所に超能力があるかのような描写が出てきたり、福山が役所や広瀬と北海道の雪原で戯れているところを夢想したり、唐突で不自然なシーンが思わせ振りに挿入されていることも興を削いだ。
 原案・脚本・監督・編集と1人4役の名匠・是枝裕和、今回は独りよがりが過ぎたようである。

 オススメ度C。

(2017年 東宝、ギャガ 125分)

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
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24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
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15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
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11『わらの犬』(1971年/米)A
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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