『ヘイル、シーザー!』(WOWOW)

Hail, Caesar!

 コーエン兄弟が1950年代のハリウッドを舞台に、映画黄金時代の内幕を痛烈に皮肉ったコメディー映画。
 ジョシュ・ブローリン演じる主人公、MGM、ワーナー・ブラザース、20世紀FOXを思わせる映画会社のトラブル処理係が様々な問題に直面する姿を通して、業界の欺瞞や矛盾を面白おかしく描いている。

 ストーリーの縦軸はジョージ・クルーニー扮するスター俳優(モデルはチャールトン・ヘストンか)の誘拐事件。
 主演のローマ史劇を撮影中、エキストラに睡眠薬を飲まされて海辺の邸宅に運ばれ、目を覚ましてリビングに入ると、そこには10人以上の脚本家が集まっており、「あんたもわれわれの仲間になれ」と共産党へ入るよう勧められる。

 この脚本家グループの中心人物のモデルは明らかに「ハリウッド・テン」のひとりとして赤狩りに遭い、長らく自分の名前で脚本が書けなかったドルトン・トランボ。
 本作と同時期に公開された『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)では表現の自由を守るヒーローとして描かれていたが、ここでは共産主義思想の狂信者であるかのように描かれている。

 〝水の女王〟エスター・ウィリアムズを思わせるスター女優(スカーレット・ヨハンソン)は男出入りが激しく、何人目かの子供を妊娠してしまったため、生まれたら養子ということにしようとブローリンは四苦八苦。
 そのブローリンにつきまとう双子の女性ゴシップライター(ティルダ・スウィントン)は、『トランボ』にも出てきたヘッダ・ホッパー姉妹がモデルになっている。

 また、『ベン・ハー』(1959年)と思しき映画にキリストを登場させるに当たり、ブローリンが各宗派の代表4人を会社の会議室に集めてお伺いを立てる場面も非常に興味深い。
 あらかじめ脚本を読ませておき、改めて「イエスの描き方に問題はありませんか?」と確認、クレームがついたり公開中止運動が起こったりするのを未然に防いでいるわけだ。

 とまあ、映画好きにはいろいろと見どころやツッコミどころが多いが、1950年代のアメリカ映画について何の予備知識もなかったら、最初から最後までチンプンカンプンだろう。
 ふつうに楽しめるコメディーとは言い難いかな。 

 オススメ度B。

(2016年 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ/日本配給=東宝東和 107分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る