『湯を沸かすほどの熱い愛』(WOWOW)

 1991年に出版されたヌード写真集『Santa Fe』に衝撃を受けたころは、まさか宮沢りえが『紙の月』(2014年)のような不幸な女の似合う女優になるとは思わなかった。
 そして、本作のように不幸な運命に甘んじることなく、最後まで一所懸命生き抜いて、家族に勇気を与える母を演じられるほどの大女優になるとは、もっと思わなかった。

 りえ演じるヒロイン・幸野双葉は、愛人のできた夫・一浩(オダギリジョー)に出て行かれ、夫婦で営業していた銭湯〈幸の湯〉を閉めざるを得なくなり、パン屋の店員をしながら一人娘・安澄(杉咲花)を育てている。
 安澄は中学校の同級生からいじめに遭っており、よく学校に行きたくないと自分の部屋で布団をかぶるのだが、双葉はその安澄を引きずるようにして学校へ送り出していた。

 そうした最中、双葉はパン屋での勤務中に卒倒して病院に運び込まれ、膵臓癌が肺や脳に転移しており、すでにステージ4の末期癌だと医者に通告される。
 ショックを受けた双葉が〈幸の湯〉に帰り、空の湯船でひとり泣いていると、そこへ安澄がスマホに電話をかけてくる場面で、あえてりえの表情を見せず、暗い銭湯の中で彼女のセリフだけが聞こえてくる、という演出がいい。

 残された余命は2年、双葉は安澄に時には以前にも増して厳しく、時にはより一層優しく接して、いじめを自分の力で克服できる強い子に育てようと躍起になる。
 最初のうちは無抵抗だった安澄が、体操の授業の間に制服を隠され、それならばと体操着で学校に通い、教室で笑い者になりながら、「私の制服を返してください」と決然と訴える場面が感動的だ。

 自分が死んでしまったら父親が必要だからと、双葉が興信所の探偵・滝本(駿河太郎)を使って一浩を探し出すと、一浩は愛人に逃げられ、彼女の生んだ娘・鮎子(伊東蒼)を押しつけられて細々と暮らしていた。
 それならばと、双葉は一浩を連れ戻すと同時に鮎子も引き取り、家族全員で〈幸の湯〉の営業を再開しようと決心する。

 この先にはストーリー上のどんでん返しが2度あり、最後の最後でタイトルの意味がわかるという見事なオチがつく。
 見ている間に3回ぐらい泣いて、いまもこうして感想文を書きながら思い出しているうち、また涙が出そうになってきた。

 宮沢りえはまごうかたなき日本を代表する大女優である。
 オリジナル脚本を書いた監督・中野量太の手腕と才能にもただただ感嘆させられた。

 オススメ度A。

(2016年 クロックワークス 125分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る