『エキストラ・イニングス 僕の野球論』松井秀喜😁🤔🤓☺️

発行:文藝春秋 定価1200円=税別
第1刷:2015年2月15日/古書

松井秀喜氏が巨人の監督に就任して以降、彼が発する様々な発言を聞いたり読んだりしている中、ふと思い出したのが、2015年に出版されたこの本である。
共同通信が配信した連載記事を1冊にまとめたもので、松井氏が現役引退後に出した著書はこれ1冊しかない。

今改めて読み直すと、タイトルにある松井氏の「野球論」が実に面白く、わかりやすく、なるほどと思わせる卓見とともに語られている。
以下、出版当時に拙ブログの旧サイトにアップしたレビューを、加筆、修正した上で再掲する。

職業柄、野球選手やOBの著書はそれなりに読んでいるが、原則として個人ブログでは紹介しないことにしていた。
ほぼ例外なく代筆者(マスコミ業界では「ゴーストライター」ではなく「構成」や「編集協力」という言葉を使う)が介在しており、その代筆者の筆力と著者との関係性に出来栄えが左右されるため、本当の著書として評価しにくいからである。

この種の本の完成度は、著者が代筆者を信頼し、代筆者が黒子に徹して、いかに密接な協力関係を築き上げられるかにかかっている。
ただし、代筆者の側がいたずらに親密になってはかえって著者に対する遠慮やおもねりが生じるため、常に適度な距離感を保って接しなければならない。

実は、これが非常に難しい。
最も親しいとされている記者が書いた有名な野球人の著書などを読むと、著者と代筆者の仲のよさだけはよく伝わってくるが、こちらが知りたいことはいまひとつよくわからない、という本がしばしばある。

その点、引退後に初めて世に出たこの松井氏の著書は、代筆者の影がほとんど感じられない。
そういう意味で、非常に理想的な着地点を見出した稀有な一冊と言える。

松井氏は序文の中で、現役時代は自分なりの考えがあってもうまく伝えられそうにないと感じると、「言葉を呑み込んでしまうことが少なからずあった」と語っている。
しかし、引退後にコラムの連載の依頼を受けると、「いままで避けてきたことに時間をかけて挑むのもいいと思った」と、ここに収められた原稿に代筆者とともに取り組んだ。

松井氏の原稿は共同通信から加盟社に配信され、2013年3月から翌14年11月まで全国の新聞各紙で連載された。
その41本の原稿に一部加筆し、巻末に代筆者によるインタビュー記事を添えてまとめられたのが本書である。

ここには長嶋監督による指導法の中身、メジャーリーグを目指した経緯、ヤンキースタジアムで抱いた感慨など、これまで松井氏が「言葉を呑み込んで」いたこと、われわれライターもわかっているようでわかっていなかったことが率直な言葉で綴られている。
とりわけ、高橋由伸をライバル視していた理由と彼に対する感情について語っているくだりは、松井氏が監督、由伸氏がヘッドコーチとしてタッグを組んだ今、大変興味深い内容となっている。

また、一時巨人でクリーンアップを組んだ落合博満の打撃のどの部分に感銘を受け、どのように真似をしようとしたか、詳細に語っている技術論も実に面白い。
極めて透明感のある文章で、等身大の松井氏と、彼の当時の気持ちや考えをほぼ過不足なく伝えることに成功している。

松井氏が「スポーツに打ち込む若い人」に読んでほしいと語った本書の内容は、11年経った今もまったく古びておらず、様々な示唆に富んでいる。
松井氏や野球のファンはもちろん、スポーツライターを志す若い人たちにもぜひ手に取ってもらいたい。

(旧サイト:2015年5月15日付Pick-up記事に加筆、修正)

😁🤔🤓☺️

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。2010〜2026年、東京スポーツでコラムや野球記事を連載。 日本文藝家協会会員。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。
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