『永遠の記憶』東野圭吾😁😭😢😳🤔🤓

最後の1行を読んで本を閉じると、思わず深い溜め息が漏れた。
著者の東野さんは恐らく、本作をガリレオシリーズの最終作にすると決めていたと同時に、自らの死期を悟り、遺作のつもりで書き上げたのではないか。

都内のスーパーマーケットで買い物をしている最中、シリーズのレギュラーのひとり、警視庁捜査一課の刑事・内海薫が70歳前後の男にナイフで脇腹を刺される。
幸いにもナイフは内臓に届いていなかったが、男は犯行直後にスーパーの4階から投身自殺を図って意識不明となっており、動機がわからない。

薫の上司・草薙が単なる通り魔的な傷害事件ではなく、内海に個人的恨みを抱く者の計画的な犯行だと考えたところから、物語はかつて草薙と薫が手がけた殺人事件に遡る。
そこで怨恨の線が強まってきた最中、本編の実質的主人公・帝都大学の天才物理学者、「ガリレオ」こと湯川学は意外な仮説を立てた。

時系列を遡る重層的な展開に加えて、定年を間近に控えた湯川と、帝都代の同期生・草薙のやり取りが、このトシ(63歳)になって読むとまことに味わい深い。
こういう文章を、本作の脱稿から間もなく、68歳で他界することになる東野さんはどのような思いを込めて書いたのか。

僕はそれほど熱心な東野作品の読者ではないが、それでも代表作は『白夜行』をはじめ10作以上読み、映画化作品も(本作と重要な関わりのある)『容疑者xの献身』など、10本以上は観ている。
そのたびに思ったのは、僕の専門分野はノンフィクションで、ミステリーとはジャンルこそ違うけれど、東野作品のような読後感を与えられる記事や本を書きたい、ということだった。

遺作となった本作も、完璧なトリックや緻密な構成は非の打ち所がない。
が、それ以上に東野ミステリー読む者の心を打つのは、登場人物たちの心の痛みが優しい筆致で描き込まれ、読む者の共感を呼び起こすからだと思う。

(発行:文藝春秋 定価2100円=税別
第1刷:2026年8月10日 第4刷:同年9月10日)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。2010〜2026年、東京スポーツでコラムや野球記事を連載。 日本文藝家協会会員。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。
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