『AKAI』(WOWOW)🤗

88分 2022年 ギャガ

まだ学生だった1983年7月7日、赤井英和が一度だけWBC世界スーパーライト級のタイトルに挑戦し、王者ブルース・カリーに7ラウンドでTKO負けした試合は、阿佐ヶ谷北の6畳一間のアパートで、小さな白黒テレビで観戦した。
赤井は当時の日本記録、12試合連続KO勝ちを達成して伝説的存在になっており、僕が毎週愛読していたプロレス専門週刊紙〈ファイト〉に掲載されていた連載記事を貪るように読んでいた記憶がある。

赤井の同級生で元プロボクサーの漫才師トミーズ雅は、引退後の赤井とともに出演したトーク番組で「赤井の試合がある日は大阪の街が揺れるんですよ」と発言。
赤井がいかにカリスマ的人気を放つ存在だったか、非常によくわかるコメントだったが、いまのボクシングファンに伝わるかどうかはわからない。

10代のころは若いボクサーにありがちなやんちゃキャラで、梅田から阪神電車に乗り、当時の終点・三宮まで行く間、最後尾から先頭車両まで歩きながら、通路に足を投げ出している客を片っ端から蹴飛ばし、三宮から梅田へ戻る間、また同じことを繰り返していた、という逸話がある。
確か、島田紳助か上岡龍太郎がテレビで話していたエピソードだが、事実かどうかはともかく、そういういかにも昭和のヤンキーっぽいところが赤井の魅力でもあった。

本作は現役時代のテレビ映像に、現在タレントとなった赤井のインタビューを挟んだドキュメンタリーで、監督を務めたのは自身もボクサーの息子・英五郎。
現在の赤井は実年齢の64歳よりずっと若く見えるが、髭を生やしていた20代前半のころは逆に、30代後半かと見紛うぐらい老けて見える。

僕のようにオンタイムで赤井の試合を見ているファンには非常に面白い作品だが、ぜいたくを言えば、「いまだから話せる」打ち明け話がもっとほしかったかな。
とくに、赤井のトークショーにチケットを買って入り込み、質問コーナーになると、「英和! なんで実家に電話せえへんの!」と食ってかかっていたというオカンのエピソード(※赤井氏本人が週刊朝日の連載コラムで書いていた話です)をどこかに盛り込んでほしかった。

オススメ度B。

A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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