『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』(WOWOW)

Casting By
89分 2012年 アメリカ
日本公開:2022年 配給:テレビマンユニオン

2012年に製作されていながら、なぜか10年後の2022年になってようやく日本公開された貴重なドキュメンタリー作品。
アメリカ映画のタイトル・クレジットにしばしば出てくる「キャスティング・ディレクター」とはどのような仕事をしているのか、この職業のパイオニアであるマリオン・ドハティ、リン・スタルマスターのインタビュー映像で詳しく紹介している。

何よりも驚かされたのは、僕が若いころに観て感動し、いまもよく覚えている作品の配役が、実は監督やプロデューサーではなく、キャスティング・ディレクターによって選ばれていたことである。
ざっと挙げただけでも、以下の通り。

『卒業』(1967年)ダスティン・ホフマン(ベン・ブラドック役)
『明日に向かって撃て!』(1969年)ロバート・レッドフォード(サンダンス・キッド役)
『真夜中のカーボーイ』(1969年)ジョン・ヴォイト(ジョー役)
『哀しみの街かど』(1971年)アル・パチーノ(ボビー役)
『脱出』(1972年)ビリー・レデン(バンジョー・ボーイ役)
『リトル・ロマンス』(1979年)ダイアン・レイン(ローレン役)
『ガープの世界』(1982年)ジョン・リスゴー(ロバータ・マルドゥーン役)
『リーサル・ウェポン』シリーズ(1987〜1998年)ダニー・グローヴァー(ロジャー・マータフ役)

上記の俳優たちも自らインタビューに応じ、ドハティやスタルマスターによるキャスティングの内情を証言。
とくに、原作では長身だった『卒業』の主人公がホフマン、当初はマイケル・サラザンが予定されていた『真夜中のカーボーイ』の主役にヴォイトが決まった経緯が興味深い。

もっと驚かされたのは、『スティング』(1973年)ではポール・ニューマン(ヘンリー・ゴンドーフ役)、レッドフォード(ジョニー・フッカー役)、ロバート・ショー(ドイル・ロネガン役)、チャールズ・ダーニング(スナイダー警部補役)など、一つの役につき一人ずつ俳優をドハティが推薦。
この映画でアカデミー監督賞を獲得したジョージ・ロイ・ヒルは、受賞スピーチでドハティの名前を出して感謝を示した。

マーティン・スコセッシ、ウディ・アレン、クリント・イーストウッドなど、ハリウッドの名監督たちもそれぞれ信頼できるキャスティング・ディレクターと組んで配役を決めていることを明かしている。
その多くが、ドハティの経営するプロダクションで俳優を見る目を養い、独立した映画人たちだ。

にもかかわらず、全米監督組合元会長テイラー・ハックフォードは「ディレクター(監督)はひとりしかいない」からと、「キャスティング・ディレクター」という呼称が使用されることには反対だと主張。
一時はこの職種をアカデミー賞の受賞対象に加えるか、数々の名作におけるドハティの功労と貢献をアカデミーが正式に顕彰するべきだとの声も挙がったが、却下されたまま今日に至っている。

オススメ度A。

A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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