プロに行きたい阿部、プロに行く松本、プロから来た田川⚾️

第2試合三回、7者連続三振を奪った阿部博光(SUBARU=日立製作所補強選手)

毎日毎日、第92回都市対抗野球を取材に行くたび、様々な予想外のドラマを目の当たりにしています。
きょうは第2試合の2回戦・日立製作所(日立市)−東邦ガス(名古屋市)戦で、日立の先発投手・阿部博光(25・補強選手=SUBARU)がいきなり一回から三回まで7者連続奪三振をマークした。

これは第49回大会の東京ガス・松沼博久(のちに西武)に43年ぶりに並んだ大会タイ記録。
阿部はもともと三振を狙って取るようなタイプではないようだが、6者連続まで来た二回終了時には、ベンチで「あとひとりでタイ記録らしいよ」と耳打ちされ、並べるものなら並び、抜けるものなら抜きたいと思ったそうです。

この阿部、一昨年東洋大からSUBARUに入社しながら、左肘を痛めて靱帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受け、昨年1年間はリハビリに専念。
苦難のときを乗り越え、初めて立った都市対抗のマウンドで成し遂げた記録だけに、喜びもひとしおだったでしょうね。

ちなみに、大学時代からプロ志望を抱いていて、いまもドラフトにかけられることを夢見ているという。
今回の阿部の復活と大会タイ記録だけでもすでに十分感動的なドラマだけれど、本当にプロに行けたらさらに劇的なサクセスストーリーができるだろうな。

しかし、試合は八回に東邦ガスが1-1の同点に追いつくと、延長十回、1死満塁・選択打順制で行われるタイブレークにもつれ込んだ末、東邦ガスがサヨナラ勝ち。
このときは延長十回表、日立の3番から始まる打順でマウンドに上がった広島カープのドラフト5位新人・松本竜也(22・補強選手=Honda鈴鹿)が力投。

10球すべて真っ直ぐで3、4番を2打者連続三振に仕留めた。
大声で吠えながら派手なガッツポーズをして見せた姿も迫力十分ときて、カープに行ってからも頼れる抑え投手になってほしい、と思わずにはいられませんでした。

押し出し四球を与えてマウンドから降りる日立製作所・田川賢吾

一方、その裏、やはり1死満塁から4番に押し出し四球を与え、サヨナラ負けで敗戦投手となってしまったのが日立製作所・田川賢吾(27)。
実は、彼はれっきとした元プロ野球選手で、2012年にドラフト3位で高知中央高からヤクルトに入団している。

高卒でドラ3というのはかなり高く評価されていたに違いないが、椎間板ヘルニアなどの故障が長引き、一時は支配下から育成に格下げ。
それでも実力で支配下に復活し、7年目の2019年には遅まきながら二軍で2試合連続完投勝利(うち1試合は完封)を挙げると、9月には一軍の広島戦に先発し、念願のプロ初白星も掴んでいる。

しかし、昨季は一度も一軍に呼ばれず、その年のオフに戦力外通告を受け、12球団トライアウトに挑戦したところ、いま所属している日立から声がかかった。
こういう苦労人には勝たせてあげたいなあ、と思っても、そうはいかないのが勝負の世界なんですよね。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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