『ペイン・アンド・グローリー』(WOWOW)🤗

Dolor y gloria/Pain and Glory
113分 R15+ 2019年 スペイン=ソニー・ピクチャーズ・リリーシング
日本公開:2020年 配給:キノフィルムズ

文学的、幻想的、牧歌的な独特の作風で知られるスペインの名匠ペドロ・アルモドバルが自伝的要素を盛り込んだ最新作。
この監督の映画は最初のうち、この種の人間ドラマにありがちな熱量や訴求力をほとんど感じさせないのだが、いつも気がついたらすっかり作品世界に取り込まれていて、幕切れまであっという間に見せられてしまう。

主人公の映画監督サルバドール・マヨ(アントニオ・バンデラス)はかつて世界的な名声を得ていながら、現在は脊椎や食道に疾患を抱え、慢性的な鬱病や睡眠不足にも悩まされており、ほとんど引退同然の状態。
そこへ、シネマテークから32年前の監督作品『風味』のレストア版を上映するので、主演俳優のアルベルト・クレスポ(アシエル・エチェアンディア)と一緒に劇場でトークショーに出演してほしいと依頼される。

サルバドールは製作当時、脚本のセリフを勝手に変更し、自分の演出意図を無視したアルベルトと絶縁していた。
しかし、大喧嘩からすでに30年以上経っていることもあり、秘書メルセデス(ノラ・ナバス)にも説得され、自らアルベルトの家に出向き、一緒にヘロインの炙りをやって関係を修復する。

俳優として行き詰まっていたアルベルトはサルバトールの家を訪ね、サルバドールが居眠りしている間に彼のパソコンに収められていた未発表脚本『中毒』を熟読。
これに魅入られたアルベルトは、この作品を上演する権利をくれ、自分に主人公を演じさせてほしいと頼むが、仕事への情熱を失っているサルバドールはうんと言わず、肝心のトークショーでも感情に任せてアルベルトをこき下ろし、ふたたび絶縁状態となる。

そんな終わりかけた〝元名匠〟の私生活の合間に、彼の少年時代の回想シーンが挟まる。
サルバドールは貧しい家庭に生まれ、洞窟のような家に暮らしながら、ほとんど家を空けていた父ベナンシオ(ラウール・アレバロ)に代わり、母ハシンタ(ペネロペ・クルス)の愛情を一身に受けて育った。

教育熱心だったハシンタのおかげで、9歳で読み書きや算数ができるようになったサルバドールは、近所に住む絵描きで職人のエドゥアルド(セザール・ビセンテ)に文字や計算を教え始める。
ハシンタはエドゥアルドから授業料を取る代わり、無償で家の壁塗りや台所の修理を依頼。

快く引き受けたエドゥアルトがある日、作業の後で裸になって湯浴みをしている最中、その姿を見ていたサルバドールが意識を失って倒れてしまった。
これがサルバドールの同性愛への目覚めであったことが仄めかされ、ふたたびストーリーが現在に戻ると、サルバドールは50年ぶりにエドゥアルトが描いた自分の肖像画を目にすることになる。

巧みな構成、ほのぼのとした雰囲気、ホセ・ルイス・アルカイネによる原色を生かした映像のルック、さらに幕切れで明らかにされるいかにも映画的な仕掛けなど、様々な余韻が胸の内で綯い交ぜになり、観終わってからも長く印象に残る。
R15+指定で、WOWOW放送に当たってボカシが入っているのは、同性愛の描写が露骨と判断されたからだろうが、多種多様性の大切さが叫ばれているこの時代、いささか不粋な気がしないでもない。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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