『レニ』(セルBD)🤗

Die Macht der Bilder: Leni Riefenstahl/The Wonderful, Horrible Life of Leni Riefenstahl
189分 1993年 ドイツ、ベルギー=キノ 日本公開:1995年 配給:パンドラ

東京オリンピック終了後、ナチ党全国大会ドキュメンタリー映画『意志の勝利』(1934年)、1936年ベルリンオリンピック記録映画『オリンピア』2部作『民族の祭典』『美の祭典』(1938年)のDVDを立て続けに観て、レニ・リーフェンシュタールという映画人に俄然興味が湧いた。
そこで、レニ本人を描いたドキュメンタリーや自伝、評伝の書籍を探し、最初に鑑賞したのがこの作品である。

オープニング、レニが「ナチスの協力者」という生涯拭えないレッテルを貼られた『意志の勝利』の映像、レニが生涯最後のドキュメンタリー作品を撮影しているスキューバダイビング中の映像が交互に映し出される。
かつてナチスの庇護の元に映画を製作し、戦後は世界中で批判にさらされながら、本作の撮影時に90歳だったレニは、いまもなお映画人として活動を続けているのだ、という監督レイ・ミュラーの強いメッセージが感じられる。

レニは本作が製作される前の1987年、85歳で『回想』という自叙伝を上梓しており、こちらも賛否両論だったことから、次はその自叙伝の映像版を作ろうと考えていたらしい。
自分がまだまだ元気であることをアピールしようとしてか、レニは終始派手で明るい衣装に身を包んでカメラの前に現れ、杖もつかずに背筋を伸ばして歩き、インタビューに応える声にも張りがあって、70代と言っても通用しそうなほどだ。

監督のミュラーは当時無名に近く、レニより46歳も年下だったから、彼女としてはコントロールしやすい相手と見たのだろうが、ミュラーも彼女の言いなりになって撮るだけではドキュメンタリーとして成立しないと判断。
ミュラーの撮り方に「そんなことはできないわ」と文句をつけたり、ゲッペルスとの関係を問われて激昂し、インタビューを中断させたりするレニの態度や表情を容赦無く映し出している。

ただし、本作は公開される前にすべての映像をレニ自身がチェックしているはずで、こういう感情をむき出しにした自分の姿もあえて残すことにしたのだろう。
そのおかげで、非常に純粋で才能溢れる映画人である半面、わがままで尊大で、過剰なまでに自己愛の強いレニの個性がよくわかるようになっている。

興味深いのは、『意志の勝利』を自宅の編集室でチェックしながら、「この映画にはナレーションがないことに気づいた?」と自画自賛して見せる場面。
プロパガンダには観る者を説得するナレーションが必要だ、でも『意志の勝利』にそんな余計な言葉は必要ないと判断した、そこがドキュメンタリーとプロパガンダの違いなのだと、レニは得意げに解説する。

ヒトラーはいつも演説に2時間かけていたが、上映時間の限られたドキュメンタリーに計4回の演説をすべて収めるためには、当然1回を数分から10分程度に編集しなければならない。
ヒトラーの言葉のどこを残し、どこを切るのか、その判断基準は何なのかと問われたレニはこう答えている。

「それは純粋に技術的な問題で、観衆が沸いて、作品に必要だと思える部分を残すのよ。
演説の中身によって残すか、切るかを判断したことはなかったわ」

『オリンピア』の撮影を振り返るくだりでは、当時の会場だったベルリン・オリンピア・シュタディオンを訪れ、実際に撮影に当たったカメラマンが2人登場。
いまなおスポーツ・ドキュメントのお手本とされている映像の数々がどのようにして撮られたのか、レニは嬉々として様々な種明かしをして見せる。

後半ではレニが再評価されたアフリカのヌバ族、世界各地の海に潜って撮影した映像が紹介されたのち、最後はやはり、戦前のヒトラーとナチスの関係について、いま90歳になってどう考えているのか、という問いかけに戻ってゆく。
本作を観たほとんどの人は恐らく、レニに独特の魅力や可愛さがあり、彼女には彼女なりの言い分もあったのだと感じることだろう。

が、しかし、それでは彼女の言うことを信じる気になるかと問われると、返事を留保するに違いない。
そういう意味で、インタビュー映像の力と怖さを改めて実感させられた作品でもある。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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