『意志の勝利』(セルDVD)🧐

Triumph des Willens 
109分 モノクロ 1934年 ドイツ 日本公開:1942年 リバイバル公開:2009年
DVD発行:コスミック出版 発売:2019年

ベルリンオリンピック記録映画『民族の祭典』『美の祭典』(1938年)を観たら、これも観ておかないわけにはいかないだろうとDVDを3枚まとめ買いし、立て続けに鑑賞したレニ・リーフェンシュタールのドキュメンタリー作品3本目。
1934年9月4〜10日、ドイツの古都ニュルンベルクで行われたナチス党(国家社会主義ドイツ労働者党、NSDAP)第6回全国大会の模様を記録したもので、ヒトラーが本作の出来栄えをいたく気に入ったことから、ベルリン五輪公式記録映画の監督にリーフェンシュタールを指名したのだという。

撮影に動員されたスタッフは100人以上、使用したカメラは16台、フィルムに収められた映像は約60時間に及び、リーフェンシュタールはこれにドキュメンタリーとは別個に撮影した〝創作映像〟を加え、独創的な映像世界を作り上げた。
開巻、ヒトラーが乗った小型旅客機ユンカースJu52がニュルンベルクの名所カイザーブルク城上空を飛んでいる場面を映し、あたかもこれから神が降臨するかのようなイメージを醸成している出だしからして、ただの記録映画ではない。

Ju52が飛行場に到着すると、ヒトラー以下、ナチスの党幹部が乗った車がホテルへ向かってニュルンベルク市内をパレード。
ヒトラーたちの表情の合間に、彼らを祝福する市民、それも子供、女性、若者の笑顔を多数挟み、ヒトラーを政治家や独裁者ではなく、ポップスターであるかのようなイメージを強調しているところがミソだ。

ヒトラー得意の演説シーンは、第1日のルイトポルトホールでの大会開会式、第2日のグルンディッヒ・シュタディオン(市営スタジアム)でのヒトラーユーゲントの集会、その夜のツェッペリン広場での政治家集会、第3日のルイトポルトアリーナでの突撃隊と親衛隊の集会、さらに同じ場所での閉会式の計5回。
とくに、スタジアムに約20万人の青少年を集めたヒトラーユーゲントの集会は最も規模が大きく、壇上で演説するヒトラーを下方から撮るカメラが半円を描くように移動し、ヒトラーの表情を様々な角度から映し出す合間、演説に聞き入る青少年たちの顔を挿入している演出が抜群の効果をあげている。

本作を観ていて、最もすごいと思わせられるのは、冒頭の字幕以降、何の説明文もナレーションもなく、当時の識者や市民の声も紹介せず、ただひたすらナチス党大会の映像とヒトラーと党幹部の演説のみに徹し、優れたドキュメンタリーとして成立させていることである。
現代のドキュメンタリーはヒトラー関連の作品も含めて、何らかの解説を加えて体裁を保つことが当たり前の手法として定着しているが、リーフェンシュタールの手法は「撮ったものだけ見せれば十分」と言わんばかりで、そういう意味では映画監督としてまことに潔い。

本作はドイツで一般公開や販売が禁止されているが、それだけ現代のドイツ人が感化されかねないことを当局が危惧しているわけで、本作がいまなおドキュメンタリー及びプロパガンダ作品として十分な魅力、影響力、説得力を有していることの証左でもある。
公開禁止の余波によるものか、ネットではウィキペディアなどで作品やヒトラー演説の内容が事細かに紹介されており、ヒトラーやリーフェンシュタールが亡くなってからも、この映画は世界の大衆の間で生き続けているのだと言ってもいいかもしれない。

もちろん、だからと言って、僕はヒトラーやナチスの犯した罪を肯定するわけではない。
ただ、そういう政治的、道義的見解と、このドキュメンタリー作品に対する評価は別だと思うだけだ。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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