『デ・パルマ』(WOWOW)😉

De Palma
110分 2015年 アメリカ 日本公開:2017年 配給:是空、TOMORROW Films.

1970〜80年代に映画にハマったファンにとって、ブライアン・デ・パルマは影響力やブランド力こそ同世代のスティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシに劣るものの、忘れてはならない存在感を誇っている。
そのデ・パルマも、気がついたらこういうドキュメンタリーが作られるほどの巨匠になっていたのかと、ある種の感慨を抱きながら鑑賞しました。

監督兼デ・パルマへのインタビュアーは最近Netflixなどで新作を発表しているノア・バームバック、U-NEXTでB級アクション映画が公開されているジェイク・パルトロウで、当然のことながら、ふたりともデ・パルマの信奉者らしい。
アメリカでは2015年に公開され、日本では2年後の2017年、新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2017/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017」のプログラムの1本として上映された。

のっけに映されるのは『キャリー』(1976年)か『スカーフェイス』(1983年)かと思ったら、なんとアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958年)。
これはデ・パルマが最も影響を受けた作品であり、「私は現代でただひとりのヒッチコックの後継者(字幕では追随者)だ」と彼が宣言して、幼少期から青春時代の追憶に移り、過去のフィルモグラフィーの自己評価に入っていく。

僕自身が印象に残っている作品では、『キャリー』のキャスティングに当たってルーカスに『スターウォーズ』(1977年)のオーディションを見せてもらい、使えそうな俳優をピックアップしたというくだりが興味深い。
ここでレイア姫の役に応募していたエイミー・アーヴィングが、キャリーをいじめる女子高生役を演じることになった。

主人公のキャリーは当初、日本では『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)で人気者になっていた23歳のパメラ・スー・マーティンに決まっており、デ・パルマは何度も厳しいスクリーンテストを繰り返していた。
ところが、『ファントム・オブ・パラダイス』(1974年)で美術を担当していたシシー・スペイセクが、あらかじめ入っていたCMの仕事をキャンセルしてまでトライアウトを受け、デ・パルマのハートを射止めたのだという。

『愛のメモリー』(1976年)はデ・パルマのヒッチコックへのオマージュ溢れる作品で、ヒロインのジュヌヴィエーブ・ビュジョルドが非常に美しい。
しかし、主役のクリフ・ロバートソンはそのビュジョルドに食われることを恐れ、画面を台無しにするような演技やメイクを行い、デ・パルマとしては大いに閉口させられたそうだ。

予算が大幅に増え、撮影規模が大きくなった『フューリー』(1978年)では大物のジョン・カサヴェテス、『アンタッチャブル』(1987年)ではショーン・コネリーともたびたび衝突。
『アンタッチャブル』のカポネ役にロバート・デニーロをキャスティングしたのはデ・パルマのたっての希望だったが、デ・パルマが下積時代に撮った『ロバート・デニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN2 哀愁のニューヨーク』(1968年)以来の昔馴染みであるにもかかわらず、「俺は高いぞ」と言われ、実際に「法外なギャラをふっかけられた」という。

不倫とトランスジェンダーをテーマにした『殺しのドレス』(1980年)では、不倫をしていた歯科医の父親を尾行し、愛人と一緒にいた現場に踏み込んだという思春期の体験を披露。
アンジー・ディキンソンが剃刀で切り刻まれる場面が残酷過ぎる、女性への虐待だと批判されたことを苦々しげに振り返り、「そうした批評家の記事はすぐに忘れられるものだ」と斬って捨てている。

現代アメリカ文学の傑作と名高いトム・ウルフの小説を映画化した『虚栄のかがり火』(1990年)は批評も興行も散々。
一時は「デ・パルマも終わった」とまで言われ、デ・パルマ自身も「危うく『成功の甘き香り』(1957年)の監督アレクサンダー・マッケンドリックの二の舞になるところだった」とこぼしている。

『成功の甘き香り』は大変重厚な作品で、内容に対する評価は高く、主人公の冷徹なコラムニストに扮したバート・ランカスターもなかなかの名演で、1993年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録されている。
しかし、興行的な失敗が尾を引き、マッケンドリックはその後、カリフォルニア芸術大学映画部の教授に転身せざるを得なかった。

『虚栄のかがり火』の失敗に懲り懲りしたデ・パルマはサバイバルを図り、『レイジング・ケイン』(1992年)でふたたびスリラー路線に復帰。
しかし、『スネーク・アイズ』(1998年)を撮ったころには予算を制限されるようになり、津波が起こる仕掛けの大がかりなエンディングを変更を余儀なくされたと、実際に撮影したその津波のシーンを見せながらぼやいている。

会社主導のハリウッドの制作システムに限界を感じたデ・パルマは、依頼仕事だった『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)を最後にヨーロッパに活動の場を移す。
自分の映画人生が晩年に入っていることも考え、これからは「一匹狼」として自由に映画を作ろう、と考えたのだ。

「映画制作はトラブルの連続で、何が起こるかわからない。
映画監督はそのすべてに耐え、解決策を見つけなければならない。

監督になろうとしても90%の人はなれないで終わる。
監督として食えていること自体、奇跡のようなものだ。

いい作品を作れるのは30~50代の間までだろう。
もちろん、もっとトシを取ってからでも映画は撮れるが、世界的にヒットするような映画を作るには体力が必要だから」

そう語ったデ・パルマは本作撮影時75歳。
最新作『ドミノ 復讐の咆哮』を撮った2019年には79歳になっていた。

オススメ度B。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

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85『民族の祭典』(1938年/独)A
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78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
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62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

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48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
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43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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