『お名前はアドルフ?』(WOWOW)😉

Der Vorname
91分 2018年 ドイツ 日本公開:2020年 配給:セテラ・インターナショナル

ドイツのアッパーミドルな家庭で開かれた夕食会で、もうすぐ産まれる最初の子供が男の子とわかった男が、息子をアドルフと名付けると言い出し、家族みんなが猛反対して激しい口論と舌戦が巻き起こる。
反対する側の理由は言うまでもなく、アドルフとくればヒトラー、ドイツ人にとって最も忌まわしい独裁者の名前だから、というもの。

そう声高に言い募るのはこの家の主人、ボン大学でドイツ現代文学を専攻している教授で、ロシアの大学で講演に招かれたりもしているシュテファン・ベルガー(クリストフ・マリア・ヘルプスト)。
一方、息子の名前をアドルフにすると主張して譲らないのは、シュテファンの妻エリザベート・ベルガー=ベッチャー(カロリーネ・ピータース)の弟で、不動産業者のトーマス・ベッチャー(フロリアン・ダーヴィト・ビッツ)。

シュテファンはインテリであることを鼻にかけており、それが高卒のトーマスには癇に障っているが、シュテファンのほうも年収が自分の3倍もあるトーマスが妬ましくてならない。
シュテファンが持ち前の知識と教養をひけらかし、アドルフという命名が子供の将来にどれだけ悪影響を与えるかを力説すると、トーマスはドイツで最も権威あるアドルフ・グリム賞、スポーツ用品メーカー最大手アディダスの創業者アドルフ・ホルスト・ダスラーなど、社会的成功者の名前を挙げ、アドルフにも立派な人物はいると反論。

口論が一種の文化論にまで発展したところで、息子を妊娠しているトーマスの妻アンナ(ヤニーナ・ウーゼ)、エリザベートの幼馴染で実の兄弟同然に育てられたレネ・ケーニヒ(ユストゥス・フォン・ドナーニー)がからんでくる。
クライマックスでは〝アドルフ論争〟が脱線して身内同士の暴露合戦の様相を呈し、ヘビーで思っても見ない内幕も明らかになるのでいささかもたれはするものの、思わぬオチがつく幕切れは爽やかで後味もいい。

ヒトラーの著書『我が闘争』、ギュンター・グラスの小説『ブリキの太鼓』、シュテファン役のクリストフ・マリア・ヘルプストが出演した『帰ってきたヒトラー』(2016年)など、ヒトラーにまつわる書籍や映画などが引き合いに出されるくだりにはニヤリとさせられる。
恐らく、いい意味でも悪い意味でも、ヒトラーを日本人より〝身近〟に感じているドイツ人をはじめ、ヨーロッパ人の観客にはもっとディープに楽しめるネタがたくさん詰め込まれているのだろう。

原作はドイツではなく、2010年のフランスの舞台劇で、2012年にはフランス、2015年にはイタリアで映画化されており、本作は言わば満を持して(?)ドイツで映画化されたもの。
監督のゼーンケ・ヴォルテマンは多数の映画や舞台劇の演出を手がけているヴェテランらしく、5人によるマシンガンのような言葉のやりとりをテンポのいい演出でわかりやすく見せることに成功している。

しかし、アドルフという名前にこれほど拒否反応を示すドイツ人は、現実にはどれくらいいるのだろう?
日本ではかつて、田中角栄が「今太閤」と呼ばれて人気を博した1972年ごろに生まれた子供が「角栄」と名付けられ、ロッキード事件が発覚した1975年以降、役所に改名を求めたという出来事が新聞に報じられていたが。

オススメ度B。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

85『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
84『野球少女』(2019年/韓)B
83『タイ・カップ』(1994年/米)A※
82『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
81『アス』(2019年/米)C
80『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
79『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
78『怒りの葡萄』(1940年/米)A
77『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
76『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
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74『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
73『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
72『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
71『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
70『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
69『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
68『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
67『日の名残り』(1993年/英、米)A※
66『メメント』(2000年/米)B
65『プレステージ』(2006年/米)B
64『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
63『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

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60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
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48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
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41『シービスケット』(2003年/米)A※
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38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
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36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
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34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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