『黒い司法 0%からの奇跡』(WOWOW)🤗

Just Mercy
137分 2019年 アメリカ=ワーナー・ブラザース 日本公開:2020年

1980年代から約30年、黒人の冤罪裁判や死刑囚の再審請求など、裁判や刑務所で差別的な扱いを受けている人々の弁護活動を続けている実在の弁護士ブライアン・スティーヴンソンの回顧録を映画化した作品。
邦題『黒い司法』は黒人を表しているわけではなく、当時罷り通っていた杜撰で悪意に満ちた司法の内情を指しており、スティーヴンソンの著書の邦題『黒い司法 死刑大国アメリカの冤罪』(原書2014年、邦訳2016年発行/亜紀書房)から取られている。

1987年、黒人差別の慣習が根強く残るアラバマ州モンロー郡で、小さなパルプ工場を営むウォルター〝ジョニー・D〟マクミリアン(ジェイミー・フォックス)が、クリーニング店で18歳の白人女性を射殺した容疑で逮捕された。
当初は終身刑の判決が下されたが、被害者の遺族を中心に極刑を求める地元民の声が高まり、検察が控訴して再審が行われた結果、マクミリアンは1988年に死刑判決を受ける。

1989年、ハーバード大学ロー・スクールを卒業して間もないスティーヴンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、アラバマ州で死刑囚や冤罪事件を専門とするNGO法律相談所EJI(イコール・ジャスティス・イニシアティヴ)の局長に就任し、刑務所でマクミリアンに面会する。
事件の記録を調べたスティーヴンソンは無実だというマクミリアンの主張を信じ、判決の取り消しと事件の再審請求をしようと説得したものの、絶望していたマクミリアンは、アラバマで黒人が白人に犯罪者だとみなされたら覆しようがないんだ、とこの申し出を拒否。

スティーヴンソンがEJIの運営部長エヴァ・アンスリー(ブリー・ラーソン)とともに資料を調べたところ、検察側が提示した証拠は、警察が司法取引によって引き出した白人の重罪犯ラルフ・マイヤーズ(ティム・ブレイク・ネルソン)やビル・フックスの目撃証言だけで、マクミリアンの犯行だと決定づける確かな物証はひとつもない。
これなら無実を立証できると判断したスティーヴンソンは、マクミリアンの家を訪ねて妻ミニー(カラン・ケンドリック)ら家族を説得し、マクミリアンの同意を得る。

しかし、スティーヴンソンが味方になってくれるものと期待していたアラバマ州地方検事、マクミリアンの裁判で元公選弁護人を務めていたティム・チャップマン(レイフ・スポール)は、死刑判決が撤回されたら地元で猛烈な反発を招くとして積極的な協力を拒否。
さらに、マクミリアンを逮捕した保安官ティム(マイケル・ハーディング)はもっと露骨な嫌がらせを行い、圧力をかける。

スティーヴンソンがマクミリアンの息子ジョン(C・J・ルブラン)の友人ダーネル(ダレル・ブリット=ギブソン)から検察側の偽証を明らかにする証言を引き出すことに成功し、裁判所に再審請求を行うと、ティムはダーネルを偽証罪で逮捕。
ダーネルはすっかり怖じ気づいて証言を撤回してしまい、スティーヴンソンが警察に乗り込んで抗議したら、帰宅途中に警官に拳銃で脅された上、エヴァの家にも爆弾を仕掛けたという脅迫電話がかかってくる。

あくまでも実話がベースで、登場人物もすべて実在の人物だからか、監督のデスティン・ダニエル・クレットンは極力淡々とした描写に徹しており、スティーヴンソン役のジョーダン、マクミリアン役のフォックスも変に力み返ることなく、ティム役のハーディングの演技にもいかにも悪役然としたところがない。
それがかえって作品のリアリティーを高め、スティーヴンソンの辛抱強い弁護活動が共感を呼ぶ要因になっている。

こうして実話を映画化している以上、バッドエンドではないだろうと想像しながらも、これほど絶対不利の状況を現実にどうやって引っくり返したのか、まったく予想がつかず、手に汗握らないではいられない。
エンディングでは登場人物たちのその後の人生について説明され、本物の画像が出てくるくだりでは、マクミリアン役のフォックス、マクミリアンの刑務所仲間アンソニー“レイ”ヒントン役のオシェア・ジャクソン・Jr、それにマイヤーズ役のネルソンが本物とそっくりなことに驚かされた

いまから約30年前、1980〜90年代の出来事ではあるが、アメリカに根強く残る黒人差別がふたたび顕在化している折、日本でももっと注目されていい秀作である。
あえてイチャモンをつけるとすれば、ネタバレ感ありありの邦題のサブタイトルは余計だった、かな。

オススメ度A。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

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22『泣かないで』(1981年/米)C
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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