『野球少女』(WOWOW)😉

야구소녀/Baseball Girl
 105分 2019年 韓国 日本公開:2021年 配給:ロングライド 

オープニングで、韓国プロ野球は発足当初、医学的に男性でなければ不適格選手とされていたが、1996年の規約改定により、現在は女性もプロ野球選手になることが可能になった、というテロップが出る。
ただし、実際には女性のプロ選手はまだ誕生しておらず、現実の球界における性別のハードルは依然として高い。

本作の主人公チュ・スイン(イ・ジュヨン)は、高校野球界に20年ぶりに誕生した女子選手として活躍し、最高速度134㎞の速球を投げ、新聞にも大きく取り上げられた「天才少女投手」という設定。
しかし、ドラフトで指名する球団はなく、トライアウトを受けようとしても書類審査で弾かれ、母親(ヨム・ヘラン)にも猛反対される。

そんなとき、新任のコーチとしてチェ・ジンテ(イ・ジニク)が高校に赴任。
プロのコーチを目指しながらも雇ってくれる球団がなく、プロの壁に跳ね返された挫折体験を持つジンテは最初のうち、夢を抱くスインを冷たく突き放していた。

それでもスインは練習をやめようとせず、プロに入るには150㎞を出せるようにならなければならないと思い込み、部活の練習のあと、日が暮れてからもスピードガンで速度を測りながら、ひとり黙々とネットピッチングを続ける。
スインは寡黙でほとんど感情を表に出さず、闘志や悔しさを剥き出しにするシーンもなければ、歯を食いしばって練習に打ち込む姿勢がことさら強調されているわけでもない。

そんな頑ななスインに親や指導者は夢をあきらめるように説得するのだが、彼らもまた一昔前の青春映画のように声を荒らげたり、手を出したりはしない。
そして、観ているこちらがそんな淡々とした描写の積み重ねに引き込まれていくのと歩調を合わせるように、コーチのジンテがスインに徐々に手を差し伸べるようになる。

おまえには男子のような150㎞の豪速球は投げられない、ナックルボールを覚えて、打者のタイミングを外して打ち取るピッチングをしろ。
そうジンテに言われた当初、ナックルはケガをした投手が投げる球だと反発したスインが、次第にジンテの助言を受け入れ、いままでとは異なる軟投派の投手を目指す過程が、観る側も素直に納得できるように描かれている。

スインが野球に打ち込んでいた割にいかにも華奢なこと、まったく日焼けしていないこと、家が貧乏なのにアディダス、ナイキ、ゼットといった高級ブランドのウエアや用具を使っていることなど、細かいツッコミどころはある。
しかし、ただ黙々と、ひたむきに、夢をあきらめないで生きていくスインの姿を追うしっとりした描写は、最後までこちらの目を惹きつけないではおかない。

監督・脚本は本作が〝日本デビュー〟のチェ・ユンテで、日本のスポ根ものやアメリカのスポーツ映画とは一線を隠した独自のテイストが素晴らしい。
役者では主役のイ・ジュヨンをはじめ、母親役のヨム・ヘラン、プロ球団のスカウト役ヤン・ヨンイ、監督役ホン・スンダクなど、脇役陣もいい味を出している。

クライマックスではスインが実在の球団KBOリーグ・SKワイバーンズ(現SSGランダーズ)のトライアウトに挑戦、ワイバーンズのユニフォームと本拠地インチョンSK幸福ドリーム球場が観られる場面も大変貴重。
野球好きならスルーせずに観ておきたい素敵で魅力的な映画だと強調しておきます。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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