記者のひとりごと『影の薄い国技』

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○心斎橋総合法律事務所報『道偕』2003年8月号掲載

貴乃花の引退で人気の低迷が増す一方の大相撲。ファンの高齢化が言われて久しく、プロスポーツの中で先行きが最も深刻なのは衆目の一致するところだろう。
名古屋場所もいま一つ盛り上がりに欠けた。

久々に出場した武蔵丸が6日目に早々と休場、土俵外で話題を振りまいた朝青龍も持ち味のスピードに欠け、こちらも10日目で休場した。
幸い千秋楽は魁皇と千代大海の東西正大関同士の対決で格好はついたものの、横綱不在の影響は否めなかった。

両横綱に引きつけるものが少ないのが、大相撲界の最大の弱点ではないかと思う。
武蔵丸は故障がちで貴乃花と張り合ったころの勢いがない。体も太めになって動きも鈍くなった。年齢的にも上がり目の要素がない。引退は近いだろう。

となると、朝青龍に期待がかかる。こちらは実力的には問題ないと思われるが、素行に難がある。闘志をむきだしにするのはいい。ただ行き過ぎることが多い。
土俵上で下がり(力士がまわしの前に下げる組みひも)で相手をたたく光景を目撃してびっくりしたファンは多かっただろう。とりわけ品格を重んじる国技で、あんな行為を見せた力士、いや横綱はいなかった。見苦しかった。

同じモンゴル人の旭鷲山との確執も話題になった。通路で道を譲った、譲らないでもめ事になり、最後は旭鷲山のわびで一応決着した。事のてんまつは社会面の記事にもなった。
肝心の土俵ではなく、それ以外で話題になったことで相撲協会の関係者の胸中は複雑だったようだ。こんな形でファンの関心を呼び戻したいとは思ってないだろうから。

横綱を追う大関以下に魅力的な若手が乏しい点も見逃せない。勢いのあった栃東、雅山、琴光喜らが長期低迷中で、すっかり影が薄くなった。他にさっそうとかけ上がってきそうなスターは今のところ見当たらない。
この光景は国力衰退中のこの国を連想させる。国と同様に低落する一方の国技。これを皮肉と言わずして何と言おうか。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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