『ラスト・ムービースター』(WOWOW)😉

The Last Movie Star 103分 2018年 アメリカ=A24
日本公開:2019年=ブロードウェイ

最近、クリント・イーストウッドの『運び屋』(2018年)、ロバート・レッドフォードの『さらば愛しきアウトロー』(同年)など、往年のハリウッドスターが自らの老いをテーマにした主演映画の秀作が目立つ。
よし、それならオレも、と思ったのかどうか、イーストウッドやレッドフォードと同時代のスター、「セックスアピールNo.1」と言われ、何度か年間マネーメイキングスターのトップにも輝いたことのあるバート・レイノルズが同工異曲の主演映画に乗り出した。

レイノルズ演じるヴィック・エドワーズは1950〜60年代の元スター俳優で、脚光を浴びた時期はレイノルズ本人より一時代前の設定だが、それでもレイノルズ自身がモデルになっていることに変わりはない。
開巻、全盛期のレイノルズがテレビのトーク番組に出演し、スタントマンから俳優に転身したエピソードを振り返る場面の直後に、現在の年老いたレイノルズの顔がクローズアップで映される。

この老いによる落差を強調したオープニングのインパクトは非常に強烈で、うわあ、あのレイノルズがこんなになってしまったのかと、彼の華やかなりし時代を知るファンに大きなショックを与えずにはおかない。
ロサンゼルスの郊外で一人暮らしをしているこの老優エドワーズが、愛犬を亡くして塞ぎ込んでいるところへ、〈国際ナッシュビル映画祭〉からあなたを表彰したい、過去の主演作の回顧上映も行う予定だという招待状が届く。

ナッシュビルまでの飛行機代、一流ホテルの宿泊代は主催者が負担し、過去にはイーストウッド、ロバート・デニーロ、ジャック・ニコルソンも招待していると書いてある。
最初は「飛行機に長時間乗ったらケツに血栓ができるんだ」と渋っていたエドワーズだったが、俳優仲間のソニー(チェビー・チェイス)に勧められて映画祭への出席を承諾。

ところが、エドワーズがナッシュビル空港に到着してみたら、迎えに来た車は中古のポンコツ、運転手はタトゥーだらけで鼻ピアスをはめたパンクな小娘リル(アリエル・ウィンター)。
宿泊先はフリーウェイの近くに建つ安モーテル、会場は片田舎のバーのフロアと、〈国際映画祭〉とは名ばかりの単なる映画オタクの飲み会に毛の生えたようなイベントだった。

あげく、彼氏とスマホで口喧嘩しているリルがヤケクソになり、本物の映画祭は〈ナッシュビル国際映画祭〉でこのイベントは〈国際ナッシュビル映画祭〉、つまり単語を入れ替えただけのインチキ映画祭だとエドワーズにバラしてしまう。
もちろん、イーストウッド、デニーロ、ニコルソンには招待状を出したことこそあれ、実際に彼らがやってきたことなどない。

怒り心頭のエドワーズはバーボンのブラントンをあおると、グデングデンになって「よくもオレを騙したな!」「不愉快だ!」と主催者でリルの兄ダグ(クラーク・デューク)に食ってかかり、安モーテルの部屋で大暴れ。
その夜、せめてもの憂さ晴らしにモーテルの前で客引きをしていたコールガールを部屋に連れ込もうと考えるが、せっかく持ってきたバイアグラのケースには一錠も残っていなかった。

前半がこんなにグダグダなら、後半はエドワーズがダグやリルと仲直りして心温まるエンディングを迎えるのだろう、という展開はある程度予想がつく。
そこまでの持って行き方がわざとらしくならなきゃいいが、と思いながら観ていたら、ここでもまたこちらの意表を突くアイデアに驚かされた。

レイノルズが主演した昔のヒット作『トランザム7000』(1977年)、『脱出』(1972年)のシーンを使い、若き日のレイノルズと年老いたレイノルズが同一場面で〝共演〟。
いまのレイノルズが昔のレイノルズに、無茶をしてはいけないと淡々とした口調で諭し、老境に入ってからの人生観を語っているのだ。

映画祭2日目の出席をすっぽかしたエドワーズは、リルに車を運転させ、生まれ故郷のノックスヴィルへ行き、彼を「生ける伝説」と褒め称えてくれる地元の人たちに思わぬ歓待を受ける。
養護施設に入れられ、アルツハイマー病を患っている最初の妻クラウディア(キャスリーン・ノーラン)と再会するくだりなど、定石通りの展開だとわかっていても観ていて気分がいい。

レイノルズは本作がアメリカで公開されてから約5ヶ月後、82歳で亡くなっており、これが最後の主演作となった。
完成度自体はイーストウッドの『運び屋』やレッドフォードの『さらば愛しきアウトロー』に及ばないが、全編に漂う〝B級感〟が、レイノルズは最後までレイノルズらしかった、と思わせる。

だからオススメ度もB。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る