『脱出』(イマジカBS)🤗

Deliverance 109分 1972年 アメリカ=ワーナー・ブラザース

中学か高校のころ、地上波の洋画劇場で吹替版を見て印象に残っていた作品のひとつ。
ノーカット字幕版はまったくの初見で、忘れているディテールも多く、思わずマジマジと見入ってしまった。

舞台はジョージア州北部のカフラワシー川。
この河川の一帯がダム建設によって人造湖の底に没する前、カヌーで川下りを楽しもうとジョン・ヴォイト、バート・レイノルズ、ネッド・ビーティ、ロニー・コックスら4人が奥地のオーリー村にやってくる。

序盤の見どころは、村に住む中国人らしき男の弾くバンジョーと、コックスによるギターとのセッション。
ギターを爪弾くコックスに中国人がバンジョーでつきあい、ちょっとした盛り上がりを見せるのだが、曲が終わってしまうと男は一言も口を利かず、呼びかけるコックスにそっぽを向いて去ってしまう。

川下りの危うい前途を予感させる場面で、最初に見た10代の時分には何とも言えない怖さを感じた。
この中国人、4人がカヌーで川に出た直後の場面で再登場し、さらに不吉な予兆を高めている(この場面は昔のテレビ放映版ではカットされていた)。

4人はいずれもアウトドア派ながら、とくに仲がいいわけではなく、ビーティとコックスはそれほどカヌーが好きではないらしい。
しかも、ビーティは内心レイノルズを毛嫌いしている、ということが次第にわかってくる。

そして、そんな川下りの最中、先行していたヴォイトとビーティが猟銃を携えた山賊のような2人組に遭遇。
ハーバート・〝カウボーイ〟・カワードという俳優が演じる「歯抜けの男」が実に不気味で、親分格のビル・マッキニーがビーティをレイプする場面が何とも生々しい。

そのマッキニーを、あとから駆けつけたレイノルズが背後からアーチェリーで射殺。
果たしてこの事態を警察に通報するべきか、それとも死体を埋めて何事もなかったかのように川下りを終えるべきか、4人が激しく意見を戦わせるシークエンスがまた異様な緊張感に満ちている。

この場面では、目を剥いたまま倒木に突っ伏したマッキニーの死体を前に、何度もカメラがカットバックして4人の表情をクローズアップで捉える。
埋めるべきだと主張するレイノルズとビーティ、警察へに電話しようと言うコックス、どっちつかずで口をつぐんだままのヴォイト。

監督ジョン・ブアマンはここに、自然の崩壊、正義の喪失、人間関係の危うさなど、現代社会に生きるわれわれが直面する数々の形而上的問題を凝縮し、見事に映画の一場面として昇華させている。
その半面、激しい急流下りの場面を通じ、大自然の中では人間がいかに無力でひ弱な存在であるかをもきっちりと、容赦なく描いて見せた。

俳優が実際にカヌーに乗って急流を下る場面はいま見ても手に汗握る迫力で、名匠ヴィルモス・シグモントによる色調とカメラワークが素晴らしい。
途中からパニック状態に陥ったコックスはライフジャケットを着けず、カヌーから落ちて溺れてしまうが、撮影中、生命に危険はなかったのだろうか。

1970年代版『恐怖の報酬』(1953年)とも言うべき鬼才ブアマンの佳作。
これでラストのオチさえ完璧に決まっていれば大傑作になっていただろうが。

それでもお勧め度はA。

旧サイト:2015年07月1日(水)付Pick-upより再録

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

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97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
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82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
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72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
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62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A 

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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