『クリスタル殺人事件』(NHK-BS)😉

The Mirror Crack’d 105分 1980年 
イギリス=コロンビア・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザース 日本公開:1981年 東宝東和

007シリーズでお馴染みだった監督ガイ・ハミルトンが、アガサ・クリスティーの名作『鏡は横にひび割れて』を映画化した40年前のミステリ作品。
主人公はポワロと並ぶクリスティーの人気キャラクター、オバチャン探偵ミス・マープルである。

オープニングでモノクロの探偵映画が始まり、容疑者の集まった屋敷に主人公の警部が現れ、真犯人を名指ししようとしたところで、突然画面が途切れる。
実はこれ、村の小ホールで行われていた映写会で、クライマックスまできてフィルムが切れてしまったのだ。

さて、真犯人は誰だったのだろう、と首を捻る村人たちに見事な推理を披露し、颯爽とホールを出て行くのが主人公マープル(アンジェラ・ランズベリー)。
この導入部はなかなかよく出来ていて、劇場公開当時のイギリス映画ならではのユーモアとウィット、おっとりとした優雅な雰囲気を感じさせる。

時代は1953年、この村はマープルが暮らす片田舎メアリ・セント・ミード。
ここでハリウッド映画の超大作『スコットランドの女王メアリー』が撮影されることになり、村を挙げての大歓迎を受けるところから本筋に入る。

この映画の主役は、久しぶりに銀幕に復帰するサイレント時代からの大女優マリーナ・グレッグ(エリザベス・テイラー)、監督は彼女の夫ジェイソン・ラッド(ロック・ハドソン)。
彼らが滞在するホテルで行われていたパーティーに、プロデューサーのマーティ・N・フェン(トニー・カーティス)、彼の妻でマリーナと共演する若手女優ローラ・ブルースター(キム・ノヴァク)がやってくる。

マリーナとローラはかつて大喧嘩をして警察沙汰になったことがあり、彼女たちの亭主ラッドとフェンも陰では互いに罵り合っている犬猿の仲。
この4人に扮したテイラー、ハドソン、カーティス、ノヴァクはちょうど1950年代、いずれも現実に大変な人気を博したスターばかりで、彼らにいがみ合う夫婦役を演じさせているところが面白い。

ちなみに、ハドソンが「妻に3度目のアカデミー主演女優賞を取らせるんだ」と息巻く場面があるが、テイラーは現実にも『バターフィールド8』(1960年)、『バージニア・ウルフなんか怖くない』(1966年)で2度オスカーを獲得している。
そのテイラーの出世作は少女の騎手を演じた『緑園の天使』(1944年)で、この映画ではマープル役のランズベリーがテイラーの姉役で共演していた。

さて、ホテルでの歓迎パーティーの最中、マリーナはヘザー・バブコック(モーリン・ベネット)という地元婦人会幹事につかまり、つまらない思い出話を延々と聞かされる。
本筋には何の関係もないように思われ、観ているこちらも首を傾げそうになった矢先、不意にマリーナの目が階段の壁にかかった聖母子像に釘付けになり、表情が固まってしまった。

このシーンのテイラーの表情は非常に印象的で、直後に起こる殺人事件の大きなキーポイントになる。
テイラー自身も本作の公開当時は「忘れられかけていた往年の名女優」と化していただけに、いま観ると異様な迫力も感じさせた。

脇を固めている役者の中では、狂言回しを務めるダーモット・クラドック警部役のエドワード・フォックスが一際光っている。
マープルの甥でもある彼は、熱心な映画ファンだとアピールしながらマリーナ、ローラ、ラッド、フェンに付きまとい、真相に迫っていく。

オールドファンには様々な楽しみ方のできる映画であり、真相が判明するラストはまことに痛切。
ウイルスや感染を忘れたくて観た古いミステリ映画に、こんなオチがついているとは想像もしなかった。

なお、邦題にある「クリスタル」は内容とは何の関係もない。
本作が公開された1980年は、作家・田中康夫のデビュー作『なんとなく、クリスタル』がベストセラーになっており、「クリスタル族」という流行語も生まれるなど、社会現象と化していたブームに便乗したのだろう。

また、映画の舞台はイギリスの片田舎だから、画像のチラシ&ポスターに使われているロンドンのビッグベンも、チラリとさえ映されていません。
ポワロが主人公の『ナイル殺人事件』(1978年)みたいな大作感を出そうとしたんだろうけど、いかにも当時の配給会社・東宝東和サンの考えそうな宣伝戦略ではあります。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A※
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B※
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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