『砂の器』(WOWOW)😉

143分 1974年 松竹 デジタルリマスター版公開:2005年

松本清張没後30年企画の1本として、WOWOWのオリジナルドラマ『眼の壁』初放送に合わせてオンエアされた往年の超大作。
監督は野村芳太郎、脚本は橋本忍と山田洋次、撮影は川又昻、音楽は芥川也寸志と名匠揃いのスタッフで製作されており、不朽の名作という評価が定着している半面、ミステリー映画としては構成や展開が破綻だらけだと批判されていたりもする。

昭和46(1971)年5月12日の早朝、国電蒲田操車場で、前頭部を石のような固形物で叩き潰された男の死体が発見される。
遺体には被害者の身元を示す物は何ひとつ残されていなかったが、ポケットに残されていたマッチから、この男が蒲田駅近くのトリスバー〈ろん〉でスポーツシャツ姿の若い男と飲んでいたことが判明。

捜査に出向いた警視庁の刑事・今西栄太郎(丹波哲郎)は、被害者が東北訛りのズーズー弁で「カメダ」という名前を何度も口にしていた、と〈ろん〉のママ(大塚きみ子)から聞き込む。
この「カメダ」が謎解きの重要なキーポイントになる、というのは映画やミステリーのファンにとっては有名な定番のネタで、『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年)でもオマージュとして使用された。

今西は「カメダ」が人名ではなく秋田の地名「羽後亀田」ではないかと睨み、蒲田署の刑事・吉村弘(森田健作)を連れて足を運ぶが、空振りに終わって帰京。
その後、東北訛りのズーズー弁と山陰の出雲弁はアクセントが共通している、と言語学者に教わった今西は、今度は単身、出雲の山奥にある亀嵩(カメダカ)という村に目をつける。

やがて、被害者が岡山で警察官をしていた三木謙吉(緒形拳)であることが判明し、しかも生まれ育って駐在となったのが出雲だとわかって、今西の推理と合致。
今西は出雲を訪ねて三木をよく知る人物・桐原小十郎(笠智衆)から重要な手がかりを掴むと、三木が殺された東京へ行く前に立ち寄った伊勢でも捜査を重ね、さらに犯人の目星をつけると、今度は大阪まで足を伸ばす。

こうして今西が日本全国を駆けずり回るたび、川又のキャメラは当時の特急電車を俯瞰で撮影し、乗り換え駅とホームの時計でその時刻も示し、さらに丹波や森田のアップからワンカットでズームアウトして、様々な地方の景観を映し出す。
この手法には劇場公開時、「無駄なカットが多い」「ロケに行ったことを自慢しているかのようだ」という批判もあったと記憶するが、いま観ると都会から地方まで、1970年代の日本の様々な光景が収められた貴重なカットのようにも思える。

一方、脚本を書いた橋本忍は謎解きの面白さをバッサリ切り捨てており、三木を殺したのは作曲家兼ピアニスト和賀英良(加藤剛)であると、彼が最初に画面に出てきた時からわかるようになっている。
終盤50分はそれまでとはトーンがガラリと変わり、和賀がピアノを弾き、指揮を振って新曲「宿命」(本作の主題曲でもある)が発表されるコンサートホール、その和賀を殺人犯だと断定した理由について今西が熱弁を振るう捜査本部の会議室と、双方の密閉された空間がカットバックで交互に映し出され、クライマックスを盛り上げていく。

そのふたつのシークェンスの間に、ハンセン病(今西のセリフでは「癩病」)を患った父・本浦千代吉(加藤嘉)と少年時代の英良(春田和秀)が生まれ故郷を捨てて日本全国を放浪し、様々な迫害を受けながらも手を携えて生きていく姿がイメージ映像として挿入される。
そんな親子の姿に、音楽家として成功を収めつつある英良の荘厳な「宿命」がかぶさる、という演出は見事の一語。

正直、いささか冗長で引っ張り過ぎのようにも感じられたけれど、ここまでやったら中途半端にまとめるわけにもいかなかったんでしょうね。
清張映画の最高傑作と言えるかどうかはともかく、清張ファンなら絶対に観ておくべき秀作だとは思います。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

77『オールド』(2021年/米)B
76『マスカレード・ナイト』(2021年/東宝)B
75『そして、バトンは渡された』(2021年/ワーナー・ブラザース)B
74『スーパーマン&ロイス』シーズン1(15)「クリプトン最後の息子たち」(2021年/米)B
73『スーパーマン&ロイス』シーズン1(14)「エラディケーター」(2021年/米)B
72『スーパーマン&ロイス』シーズン1(13)「非常手段」(2021年/米)B
71『眼の壁』(2022年/WOWOW)B
70『白蛇小町』(1958年/大映)B
69『妖怪大戦争』(1968年/大映)B
68『妖怪百物語』(1968年/大映)B
67『レミニセンス』(2021年/米)C
66『張込み』(1958年/松竹)B
65『トップガン』(1986年/米)B
64『ゼロの焦点』(1961年/松竹)C
63『ザ・商社』(1980年/NHK)B
62『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960年/東宝)B
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58『スーパーマン&ロイス』シーズン1(11)「つかの間の追憶」(2021年/米)A
57『天使と悪魔』(2009年/米)A
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53『スーパーマン&ロイス』シーズン1(9)「忠実なサブジェクト」(2021年/米)A
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50『ライトハウス』(2019年/米)C
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33『スーパーマン&ロイス』シーズン1(3)「人気者であることの特権」(2021年/米)B
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30『私は確信する』(2018年/仏、白)C
29『透明人間』(2020年/米)A
28『アナザーラウンド』(2020年/丁、蘭、瑞)A
27『スーパーマン&ロイス』シーズン1(2)「引き継いだもの」(2021年/米)A
26『スーパーマン&ロイス』シーズン1(1)「パワーの目覚め」(2021年/米)A
25『日本女侠伝 侠客芸者』(1969年/東映)A
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22『王の願い ハングルの始まり』(2019年/韓)A
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20『タイムマシン』(2002年/米)C
19『アンダーウォーター』(2020年/米)C
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12『ミナリ』(2020年/米)A
11『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(2021年/東宝映像事業部)C
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9『劇場版 奥様は、取扱注意』(2021年/東宝)C
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7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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