『英雄の証明』😊

 قهرمان
127分 2021年 イラン、フランス
日本公開:2022年 配給:シンカ
@新宿シネマカリテ 4月12日12:30〜

4月12日に観に行ったこの映画、クリーニング店の混雑やら総武線の遅延やらで上映開始時間ギリギリで映画館〈新宿シネマカリテ〉に辿り着き、席に腰を落ち着けたときは汗ビッショリ。
てっきり系列の新宿武蔵野館の近くかと思ったら、結構離れたところにあったから、ちゃんと場所を確認しておかなきゃいかんなあ、と内心で反省している最中に映画が始まりました。

これだけ苦労して観た映画というのは良くも悪くも印象に残るもの。
しかも、『彼女が消えた浜辺』(2009年)以来のファンで、『別離』(2011年)、『ある過去の行方』(2013年)、『セールスマン』(2016年)など、代表作はほとんど観ているアスガー・ファルハーディー監督作品だから、大いに期待して観入りました。

主人公ラヒム・ソルタニ(アミール・ジャディディ)は借金を返せず、貸主に訴えられて服役中の身だが、模範囚だからと2日間の「休養日」を与えられ、自宅のある古都シラーズに帰ってくる。
囚人でも刑務所から「休養日」を与えられたらシャバに出られる、というイラン独特のシステムに観ているこちらが驚いていると、恋人ファルコンデ(サハル・ゴルデュースト)がバス停で拾ったバッグをラヒムに渡す場面から本題に突入。

バッグの中には17枚の金貨が入っており、ラヒムとファルコンデはいったん換金して借金の返済に充てようとしたものの、貸主のバーラム(モーセン・タナバンデ)に拒絶されて断念。
そのまま金貨を持っていることに良心が咎めたラヒムは、バス停近くの銀行の職員たちと相談し、拾った金貨を預かっている、心当たりのある方は刑務所に電話してほしい、という貼り紙を作ってあちこちに貼り出す。

程なくして連絡を寄越した落とし主は中年の女性で、彼女はラヒムがバッグを預けておいた姉マリ(マルヤム・シャーダイ)の家でバッグごと金貨を受け取った。
この〝美談〟に目をつけたテレビ局や新聞から取材依頼が舞い込むと、最近、囚人から自殺者を出していた刑務所の所長たちは積極的にインタビューを受けるようラヒムに勧める。

こうして〝善意の囚人〟として有名人になったラヒムはチャリティー団体から表彰され、借金苦に同情した人たちから寄付金が殺到する。
しかし、貸主のバーナムはこの〝美談〟を作り話だと主張して譲らず、3000万トマン(約100万円)以上の寄付金を借金返済に充てようとするラヒムに対して、元金の1億3000万トマン(約430万円)を払えと要求。

やがて、バーナムの主張を裏付けるかのような噂がSNSに流れ、ヒーローになったはずのラヒムは借金を返せず、出所と再就職の道も閉ざされ、一転して人生の窮地に立たされる。
SNSによって人生が狂う、というストーリーの骨子自体はいまや珍しくないが、本作はスマホやPCの画面を見せず、徐々にラヒムが追い詰められてゆく様子の積み重ねで観客を引きずり込んでいく。

こうした静かなサスペンスの盛り上げ方はさすがファルハーディーで、ついに二進も三進もいかなくなったラヒムがパニック状態に陥るクライマックスは、観ているこちらの胸が痛くなるほど。
そんなラヒムを最後まで擁護する義兄ホセイン(アリゼラ・ジャハンディデ)、何があってもラヒムを信じて止まない吃音症の息子シアヴァシュ(サレー・カリマイ)のキャラクターも印象に残る。

ただ、筋を追いながら冷静に考えてみると、なぜラヒムは金貨の落とし物を最初から警察に届け出なかったのか、姉マリは落とし主の名前、住所、連絡先を聞いておかなかったのか、少々首を捻りたくなる部分も目につく。
ファルハーディーのことだから、そうした前提もすべて納得の行くように回収されているかと思ったけれど、納得できるかどうかは観た人によって個人差があるでしょうね。

採点は80点です。

2022劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

3『THE BATMAN−ザ・バットマン−』(2022年/米)80点
2『ドライブ・マイ・カー』(2021年/ビターズ・エンド)90点
1『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年/米)90点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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