『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(WOWOW)🤗

Stuntwomen: The Untold Hollywood Story
84分 2020年 アメリカ=MPX 日本公開:2021年 配給:イオンエンターテインメント

ポスターのキャッチコピーにある通り、大ヒットした数々のハリウッド映画で危険なスタントを演じてきた女性たちの群像を描いた貴重なドキュメンタリー。
『トゥルー・ライズ』(1994年)でジェイミー・リー・カーティスが橋を疾走する車からヘリコプターに吊るされた縄梯子に飛び移るスタントを演じたドナ・キーガン、『マトリックス リローデッド』(2003年)でキャリー=アン・モスがバイクで高速道路上の車線を逆走するアクション(しかもノーヘル!)を演じたデビー・エヴァンスらの証言は、聞いているだけで手に汗握り、息を呑むほどの迫力である。

デビーの妹ドナ・エヴァンスは『トータル・リコール』(1990年)でシャロン・ストーンのスタントを務め、キッチンでアーノルド・シュワルツェネッガーとの格闘シーンを演じているが、僕は本作を観るまで、てっきりストーンが自分でやっているのかと思っていた。
監督のポール・ヴァーホーヴェンによれば、「素晴らしく良くできたシーンなので、顔が映ってもシャロン本人でなかったとはわからないんだ」そうで、「あの擬闘はドナ以外の俳優には頼めない」と絶賛している。

そうしたスタント撮影の裏話や経験談だけでも十分に面白いが、本作はそうした単なる内幕ドキュメンタリーにとどまらず、映画界における女性の立場や性差別の歴史と実情にまで踏み込んでいる。
冒頭に登場する映画史家ベン・マンキーウィッツによれば、女性の映画界進出は1910年代のほうが現在よりも盛んで、女性のスタントパーソンだけでなく、映画監督や映画会社のオーナーも1980年代より多いほどだったという。

エグゼクティヴ・プロデューサーも務めているミシェル・ロドリゲスは『ワイルド・スピード』シリーズ(2001〜2021年)で知られており、オートバイで海に突っ込んだり、列車の屋根から飛行機の縄梯子に飛び移ったりする100年以上前のスタントは「いまでは考えられない」と指摘。
その上で、「彼女たちのおかげで、いまの私たちがある」と、当時のスタントウーマンに対するリスペクトを語っている。

しかし、映画がビッグビジネスに成長するにつれ、業界内部は男性社会へ変貌してゆき、女性は次第に脇へ押しやられるようになっていった、とマンキーウィッツや映画監督ポール・フェイグは言う。
露骨な女性差別も横行し、1961年にスタントマンの協会が設立されても女性は入会を拒否されたため、テレビドラマ版『チャーリーズ・エンジェル』(1976〜1981年/ABC)でスタントウーマンを務めたジュリー・アン・ジョンソンらが中心となって声を挙げ、1967年に女性だけの「スタントウーマン協会」を創設。

同じころ、やはりスタントマン協会に入会を拒否された黒人たちが「黒人スタントマン協会」を立ち上げ、こちらは最初から女性の入会も認めていた。
「だから、女性と黒人の権利を確立しようという動きは最初から連動していたわけよ」と言うテレビドラマ版『ワンダーウーマン』(1975〜1979年/ABC、CBS)でリンダ・カーターのスタントを務めたジーニー・エッパーの証言が興味深い。

やがてジョンソンは『チャーリーズ・エンジェル』で女性として初めてアクション監督を任され、ドラマではファラ・フォーセット=メジャースのスタントを務め、シェリル・ラッドのスタントを務めたエッパーと共演。
一見、映画界における女性進出と権利拡大が着々と進行しているように見えて、実はまだ男性社会の壁が高いことを実証する事件が起きる。

1987年、『チェーリーズ・エンジェル』の撮影中、直前にコカインを吸引していたスタントドライバーの運転ミスにより、ジョンソンが後頭部を打撲するケガをした上、5シーズン目に突然解雇されてしまった。
ジョンソンは損害賠償を求めてプロデューサー側を訴え、一審で111万1000ドルの賠償金を勝ち取ったが、裁判の裏側で弁護士がマフィアに脅迫されたとも言われ、二審で逆転敗訴となり、1992年にはジョンソンの敗訴が確定する。

デビー・エヴァンスは「現場では男たちに一目置かせるようなことをして見せなければならない」「痛いと感じても絶対に口にはしない」と、いまでも男社会である映画界で生きていくには「タフでなければならない」と強調。
その一方で、「スタントを行う前には必ず目を閉じてイメージすることが重要」だと指摘し、「イメージできない時は何らかの欠陥があるということ」だから、勇気を持ってスタントを断らなければならない、と言う。

エンターテインメントとして面白く、きちんと問題提起を行った上で、スタントに命をかける女性たちの人生を描き出す。
そして、これが重要なのだが、観終わったあとで元気をもらったような気分になれるところが素晴らしい。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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