『歩いても 歩いても』(WOWOW)🤗

114分 2008年 シネカノン

是枝裕和の長編映画第6作で、昨年5月27日放送分を録画しておき、1年以上たったいまごろになってやっと鑑賞。
観る前日、広島県竹原市の実家に電話し、両親と話し込んだばかりだったから、いろいろと思うところが多かった。

主人公・横山良多(阿部寛)が妻ゆかり(夏川結衣)、一人息子あつし(田中祥平)を連れて、お盆に東京から横須賀市長沢(作中の説明はないが電柱の表示でそれとわかる)の実家へ帰省する。
絵画修復士の良多は現在失業中、ゆかりは良多と結婚する前に前夫と死別、あつしは彼女の連れ子で、ふだんは良多をパパではなく、良ちゃんと呼んでいる。

実家には先に良多の姉・片岡ちなみ(YOU)が帰省していて、母・とし子(樹木希林)と一緒に料理を作りながら、近いうちに自分が夫・信夫(高橋和也)、長女さつき(野本ほたる)、長男・睦(林凌雅)を連れて実家に引っ越し、年老いた両親の面倒を見ようかと相談していた。
この家は父・恭平(原田芳雄)が経営していた個人病院を兼ねていたが、しばらく前に恭平の高齢化によって閉院したのだ、ということが家族同士の会話からわかってくる。

良多とちなみの家族がそろい、みんなが仏壇に線香をあげ、墓参りをして手を合わせているのは、15年前に亡くなった横山家の長男、良多とちなみの兄だった。
父の後を継いで医者になるつもりだった兄は、海で溺れかけた少年を助けようとして自分が死んでしまったらしい。

兄と違って父に反発していた良多はいまでも折り合いが悪く、母も表向きは息子夫婦を歓迎しているように装いながら、良多が子連れの嫁をもらったことを心良く思っていない。
親子が言葉の端々にそれぞれのエゴをのぞかせ、小出しにしてぶつけあう中、それでも決して感情を爆発させようとはせず、良多一家は母に勧められて久しぶりに実家で一夜を過ごす。

良多の義弟・信雄はディーラーをやっていて、家族みんながいる居間で良多に新車の購入を進めると、「私は息子の運転する車に乗って買い物に行くのが夢だったのよ」と母が口を挟む。
そこに姉ちなみが「親の考えることなんてどこでも一緒ね」と合いの手を入れるのだが、良多は運転免許を持っておらず、失業中とあっては、いまから母の夢を叶えることはできない。

僕も一度、自分の母親に同じようなことを言われたことがある。
原作・脚本・編集も手がけた是枝裕和監督は、そんな何気ない日常会話に肉親ならではの複雑な感情をにじませ、家族の穏やかなようでいて一種独特の緊張感をはらんだ雰囲気を醸成していく。

母は良多、ゆかりのそれぞれとふたりになったとき、あんたたちは子供はつくらないほうがいい、連れ子のあらたと折り合いが悪くなり、いろいろ難しいことが起こるから、と差し出がましい助言をする。
要するに、母は良多だけでも実家に戻ってきて、自分たちの面倒を見てほしいのだが、母もさすがにそこまでは口に出さず、良多もゆかりも黙って聞き流すしかない。

一番恐ろしいのは、母が毎年、お盆に長男が助けた少年を家に呼び、線香をあげさせていることが明らかになるところだ。
しかし、このシーンがあるからこそ、終盤の幕切れが胸に沁みることもまた確かである。

タイトルの意味が明かされる場面も見事で、これには同業者の多くが「やられた!」と歯噛みしたことだろう。
とりあえず、コロナ禍もあるので今年のお盆は無理だろうが、暮れには実家に帰りたいと、個人的には思いました。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る