『キング・オブ・ポルノ』(セルDVD)😉

Rated X
120分 2000年 アメリカ:CATV映画 日本版DVD発売:2002年

アメリカ映画史上初の劇場公開用ハードコア・ポルノ映画『グリーンドア』(1972年)を製作したジム&アーティのミッチェル兄弟を、実の兄弟であるエミリオ・エステベスとチャーリー・シーンが演じている異色の伝記映画。
エステベスが兄のジム役と監督を務め、シーンが弟のアーティに扮している。

1967年、サンフランシスコ州立大学で映画の勉強をしていたジムは、ベトナム反戦運動のドキュメンタリーを制作している最中、ヒッピーの女性の裸踊りに目を奪われて撮影に熱中。
教授に「おまえが作ったものはただのポルノだ」とこき下ろされると、開き直ってシスコにスタジオを借り、ブルーフィルムの制作を始める。

そこへ、ベトナムから復員した弟アーティが帰国。
幼いころは兄よりウブで生真面目だったこの弟に、兄はマリファナを始めさせ、女の裸で商売することを教え込み、「一緒にポルノ業界のワーナー・ブラザースになろうぜ!」と持ちかける。

1970年にはサンフランシスコにポルノ映画専門館〈ミッチェル・ブラザース・オーファレル劇場〉をオープン。
当初は10~30分程度のブルーフィルムばかり上映し、32本の新作を上映して32回連続で逮捕と、新作をかけるたびに警察に摘発されたことにより、かえって業界での評判を高めていく。

本作を観る限り、ミッチェル兄弟の両親もポルノ・ビジネスを熱心に支援、兄弟の妻たちも映画制作に積極的に関わっていたらしい(この感覚には少々理解できないところもあるが)。
やがてミッチェル兄弟は『グリーンドア』の公開によって大ブレーク、ついにこの業界のトップに上り詰めた。

しかし、弟のアーティはこのころから、兄のジムに対して憎悪と反発を強めていく。
『グリーンドア』の主演女優マリリン・チェンバース(本作ではトレイシー・ハトソンが演じている)を口説き落としたのはアーティのほうだったことから、「監督もおれにやらせろ」と言って聞かず、仕方なくジムがアーティに任せたら、フィルムに何も映っていないという大失敗。

以後、監督・脚本はジムが仕切るようになり、恥をかかされて不満を鬱積させたアーティは酒、麻薬、女遊びに溺れ、家庭も破綻してしまう。
最初のうちこそアーティと一緒にコカインをやっていたジムが薬を断つことに成功したのに対し、アーティはますますコカイン中毒が進み、昼間から缶ビールが手放せないほどアルコール依存症も悪化。

ジムへの猜疑心を募らせたアーティは、常に拳銃を持ち歩き、自宅のプールサイドでビール缶を撃ったり、オーファレル劇場で発砲騒ぎを起こしたりする。
と、ここまで書いたら、察しのいい映画ファンならおわかりのように、これはアーティを演じるチャーリー・シーンの現実の人生そのものと言ってもいい。

シーンが現実に暴力沙汰や発砲事件を起こしたことは有名で、女遊びは数千人に及び、チェンバースと同時代に人気を博したポルノ女優ジンジャー・リンとも交際していた。
そのシーン自身がのちにHIVウイルスに感染していることをカミングアウト、交際していた女性たちに告訴される羽目になった一方で、彼が演じたアーティのほうはどうなったか。

アーティはジムに一日20回も30回も電話をかけては留守電に罵声を吹き込むようになり、ジムは身の危険を感じ始める。
最終的には現実通りの大変深刻な結末を迎えて、雰囲気を和らげる演出も音楽もなく、幕切れは真っ暗な画面にエンド・クレジットが流れるだけ。

本作の評価は賛否両論あったようだが、エステベスの演出はなかなか気合が入っていて、力作であることは確か。
アメリカのポルノ業界を描いた映画としては、テレビ映画特有の表現上の規制もあってか、大傑作『ブギーナイツ』(1997年)にこそ及ばないものの、記憶にとどめておいていい一篇である。

お勧め度はB。 

旧サイト:2016年04月30日(土)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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