『シン・ゴジラ』(IMAX)🤗

120分 2016年 東宝 

第1作の『ゴジラ』(1954年)は学生時代に池袋の旧文芸座で鑑賞、そのときの感動が忘れられず、2001年に初めてDVD化されるとすぐに購入している(定価6000円!)。
それほど思い入れが強かったせいか、リブート第1作の橋本幸治監督版『ゴジラ』(1984年)、ローランド・エメリッヒのアメリカ版第1作『GDZILLA』(1998年)は駄作にしか見えず、第2作に当たる『GODZILLA ゴジラ』(2014年)も怪獣映画としてはよくできていたけれど、外国人によるゴジラ像への違和感が先に立ち、心置きなく楽しめるほどの出来栄えには達していなかった。

しかし、その〝アメリカ製ゴジラ〟が意外にも世界的に大ヒットし、それならばと東宝が庵野秀明に総監督としてリメイクを依頼したのが本作のスタートだったという。
ぼくは庵野がブレークした『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)をまったく見ていなくて、大して期待もせずに劇場へ足を運んだのだが、豈図らんや、これが実に面白かった!

本作が成功した最大の要因は、実際に東京にゴジラが上陸したら政府や自衛隊はどのような対応をするのか、徹底的なリサーチを行い、その調査結果に基づいた一種の〝ポリティカル・フィクション〟にしたことだろう。
開巻、東京湾で海底火山によく似た水蒸気の噴出が起こり、アクアラインのトンネル天井に亀裂が走って大量の浸水が発生、政府内でただちに関係閣僚による対策会議が召集される。

この種の映画の常として、主人公の矢口官房副長官(長谷川博己)だけは怪獣の存在に気がついているのに、上司の東官房長官(柄本明)、先輩の赤坂首相補佐官(竹野内豊)らは「そんなマンガみたいなこと、現実にあるわけないだろう」と取り合おうとしない。
怪獣映画のツボをよく心得た導入部で、そうこうするうちに出現した「巨大不明生物」が蒲田に上陸、ビルや住宅を破壊し、住民を踏み潰しながら品川へ向かう。

その巨大不明生物がメタモルフォーゼを起こし、徐々にゴジラへと変貌していく中、被害が拡大してゆく事態の推移に合わせて、政府と自衛隊の対策会議の模様が事細かに描かれる。
登場人物はほとんど例外なく早口で、うっかりすると聞き逃しそうな専門用語を連発、しかも人物(名前、役職、肩書)、場所(会議室、対策本部、基地内部)、兵器(戦闘機やヘリコプター)などのテロップが頻出するので目がついていかない。

展開が非常に慌ただしく、この流れに乗っていけない観客もいるだろうが、災害時に政府が大慌てでその場しのぎ的な対応しかできないのはむしろいかにも現実的で、次第に身につまされるようなリアリティを感じさせる。
これは要するに、「東日本大震災」や「熊本地震」を、東京における「ゴジラ」に置き換えたシミュレーションなのだ。

そして、何と言っても、日本映画初のCGによってつくられたゴジラの造形が素晴らしい。
ゴジラのイメージデザインを担当した前田真宏はぼくと同い年で、原案を考えた庵野はぼくより3歳年上、監督・特技監督の樋口真嗣は2歳年下と、同世代の彼らがゴジラのどういう部分が恐怖を感じさせ、どんなところが日本人を惹きつけてやまないのか、きちんと心得ていることがよくわかる。

このゴジラが東京駅周辺で日米連合軍と最後の決戦に臨むクライマックスは久々に身震いするほどの迫力だった。
もうひとつ、オープニングとエンディングのほか、ゴジラと日米空軍の対決シーンなど、要所要所で伊福部昭の音楽を実に効果的に使っていることも強調しておきたい。

観ているうちに鳥肌が立ち、ゴジラと伊福部音楽が分かち難く結びついていることを改めて痛感した。
あえて弱点(と言うより、個人的好みに合わない部分)を挙げるとすれば、米国大統領特使という役割で登場する石原さとみのパートが少々余計で、もっとハードなドキュメンタリー・タッチに徹していれば完璧な傑作になっていたのに、惜しい。

採点は90点(オススメ度A)です。

旧サイト:2016年08月1日(月)Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※
61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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